第86話

「何それ、理解出来ない質問だね」



訝し気な顔で、すぐに答えるナツキさんを見て、あたしは「あ……いえ」と、すぐに続けた。



「そう、ですよね。すみません……変なことを聞いてしまって……」



やはり、聞くべきではなかった。誰しもがナツキさんのような反応をするだろうし、


答えなどいくら考えても、ここには存在しない。


頭を下げて、話を切り上げるようにして、あたしは視線を窓の外に向けた。


けれど、ナツキさんは続きを話すように「ま、」と口を開いた。



「自分ではそんなことしないけど、やる人はいるんじゃない?」


「……それって」



今一度ナツキさんを見て、「どういう、ことで」と続けてしまう。



「んーそうだなあ。気晴らし、間が差した、とか気分の問題かあるいは」



車の冷房が、足の間を吹き抜けた。


そのせいで、些か背筋が冷えたように感じたのは、



「執着、復讐、愛憎、そういった心の問題もあるんじゃない?」



気のせいだろうか。



―――水波さん、と。


あの人が、あたしに向ける眼差しを考えた。


光を忘れたような、まるで無感情に動いているような、


そんな、冷ややかな目の奥に。



「小宵ちゃんへのぴったりな答えとしては」



一体、何があるのだろう。



「後者かな」



何、が。

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