第83話

「あの場所での八神さんは、あまりにも立派で……その、寸分の隙も無いんです……」



ずっと神経を張り巡らせて、完璧な問いに完璧な答えを用意している。


そうすることしか、今までずっと許されなかったかのように。



「それって、どれだけ凄いのかな……って」



凄くて、それでいて、あまりにも窮屈で。


だから、あたしは帰り際、彼に声を掛けてしまった。それが間違った選択だとわかっていたのに。



「……相変わらず面白いね、小宵ちゃんは」



はっとして顔を上げると、ナツキさんは「そんなの誰も気にしないのに」とまるで嘲笑うかのように言う。



「そんな当たり前のこと」



それでいてどこか冷めたように。



「〝八神綾人〟なんだから」




言われてしまえば、納得してしまう。


彼は、八神の家の息子で、必ず完璧でなければならない。


当たり前のように、あらゆる人がそう思っているけれど、彼自身の意思は、


一体、どこにあるのか。



「そう、ですね」



気にすることではない。


少なくともあたしが、考えることではない。


厚かましい、身の程をわきまえなくては。


あたしは彼が嫌いで、彼もまた、あたしのことが嫌いなのだから。

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