第82話

まるで、見てきたかのように訊ねるのだなと思った。



あの家で、あの場所で、


息が詰まるようなあの空間で、


彼はきちんと、おぞましいほどまで完璧だった。



そしてそれを、そんな八神さんの姿を、


きっとナツキさんは知っているのだろう。



「普段通り、でしたよ」


「ふーん、そっか……小宵ちゃんはどうだった?楽しかった?」


質問の意図が読めない。


聞かなくてもわかる筈だろうに、ナツキさんは時々、こちらを試すような物言いをする。



「…………凄いな、って思いました」


「まあ、天下の八神の大邸宅なんだから、そりゃ凄いに決まってるよ」


「建物のことじゃないです」


「じゃあ、レセプションのこととか?」


「いいえ」



首を振って、不思議そうな顔をするナツキさんにあたしは正直に口を開いた。



「八神、さんが」


「アヤちゃんが?」



目を見張り、「うーん」と口元を指で塞ぐと「それってどういう意味?」と彼は言う。



「アヤちゃんはいつだって凄いでしょ」


「そ、それは、そうなんですが……」



皿の上に乗っている食事を見下ろしながら、あの家を断片的に思い出していく。

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