第80話
思わず振り返って、けれどこれでいいのだと首を振って、また前を向く。
八神さんは忙しい人なのだから、こんな時間に、あたしなんかに構っている暇などない。
昨日のことは、彼にとって大したことではないのだ。
わかっていたけれど、実際に顔を突き合わせると、まざまざと感じさせられた。
八神さんへの挨拶が短く終わってほっとしながらも、不安が払拭されることはなかった。
明日は刻一刻と迫っている。
本当に八神さんは、あたしを婚約者として発表する気でいるのだろうか。
彼が望めば、手に入らないものなんてないはずだ。
どんな形であろうと、あたしのようなちっぽけな人間を縛り付けることなんて容易いことなのに、どうして。
どうしてなんだろう。
自分が何かを持っていると思ったことはない。
誰かにとって、プラスになるような存在でもない。
傍にいてほしいと思ってもらうような、そんな立派な人間でもないのに。
あの人はある意味、あたしを買いかぶっているのかもしれない。
―――日が昇り切ると、ついに一日が始まったことを知る。
頭痛は少し引いたものの、頭の重さは抜けなくて、眠気が残っているようにずっと視界がぼんやりしている気がした。
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