第76話

身体を横に向けて、机の上に頬杖を突くようにしてこちらを見る。彼の派手な髪が、その頬杖に合わせて横に揺れた。


「ぁ、み、みなみ」


「え?なんて?」


「みなみ!こよい……です」


「へえ、こよいって名前なんだ。つか声ちっさー。ノミの鳴く声みたい」


嫌味というわけじゃないのだろう。特に声色を変えないまま彼は続ける。


「でもいいね、珍しい名前。夜ってかんじ」


「よ、よるですか?」


「うん。あー」


頬杖を解き、今よりあどけなさ残した彼はにっと微笑んで「俺はね」と。


「獅戸立夏って言うんだ」


改めて自己紹介してくれるのか。なんて丁寧な人なんだと、あたしは目をぱちくりとさせながら「よ、よろしくおねがいします」と頭を下げた。二つに結んだ三つ編みが、身体の前で揺れる。


その様子を眺めながら、彼は「うん」と笑って、


「よろしくね、お隣さん?」


あたしに向かって、そう告げたのだ。

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