第73話

あたしは暫く、家に引き篭もった。母が死んだときのように、目の前が暗くなる。


気づけば涙が流れて、どうしようもなく苦しくなった。



「小宵、今日は外に食事しに行こう」


「……」


「小宵が好きだと言った、ここ。このレストランに行こう!きっと、」


「すき……?」



そんなことを言った覚えがなかった。首を傾げたあたしを、春明さんはなお心配した顔で見つめた。伊吹が悲しそうな顔であたしを眺めて「早く行こう」と手を引いてくれた。


頭がぐるぐるとしてしまう。ここ暫くの記憶が全てぼんやりとしていた。母が亡くなったことも、あのパーティーで起きたことも、飾利さんがいなくなってしまったことも。


全部全部、頭の中から薄れていく。


昔よりさらに俯きがちになったあたしに反して、伊吹はよく前に出てくれるようになった。行事ごとでも、学校のことでも。姉ちゃんは前に出なくていいよ、と言われていないけど、そう告げているようだった。



「小宵!見てくれ!」


「わっ!これは?」


「うさぎのぬいぐるみ!会社のひとに流行ってるって聞いて買ってみたんだ。どうだ?」


「かわいいです!」


「そうか。ほら伊吹!お前には……怪獣の……」


「いらない」

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