第71話

伝われ、伝われ伝われ、


伝わ、


れ、と願った刹那。身体をその人に包まれた。



世界中が、暖かくて、優しくて、大好きな香りに満たされたような気持ちだった。




「うん。あたしも、お母さんも」



大好きな、だいすきなぬくもり。



「小宵ちゃんが、だーいすき」



ずっと、ずっとそばにいてほしかった、あたたかなぬくもり。







その夜、飾利さんは再び体調を崩した。「風邪がぶり返しちゃったかな」と笑っていた。


眠る前、いつものように笑って、あたしの名前を呼び、そうして伊吹の名前を呼んだ。



「小宵ちゃん、伊吹。春明さんはああ見えて、結構寂しがり屋なの。ふたりが支えてくれたら、きっと喜ぶから」


「だから、お願いね」と言って、あたしたちの手を握る飾利さん。あたしは勿論、と頷いて、伊吹は何も言わなかったけれど、飾利さんの手をずっと握っていた。




それから暫くして、あたしたちはそのまま眠った。


夜中に目が覚めて、不意に横を見ると咳込んでいる飾利さんがいた。


飲み物を探している飾利さんに「飲み物持ってきます」と言えば、顔色の悪い顔で「っお願い」と無理に笑っていた。

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