第69話

その年、飾利さんの身体の調子が急激に崩れた。


咳込む姿を心配そうに見つめていれば、「ただの風邪だから大丈夫」とあの優しい笑顔で言われた。


そのやせ細った姿が、母の姿と重なった。


知らない振りをしようとしても、飾利さんの姿を見れば見るほど母の面影がちらつく。


飾利さんほどじゃなくとも、顔色が悪くなり日々不安げなあたしを、伊吹は隣で支えてくれた。


あたしより、ずっと辛い思いをしているのはこの子かも知れないのに。


手を握れば、握り返してくれる。心優しい伊吹は、いつかきっと、誰よりも幸せにならないといけない。


そのためには支えてあげなきゃ、支えていかなきゃいけない。




「小宵ちゃん!」


「っ、もう大丈夫なんですか!?」


「うん、今日は調子がいいの。一緒にお散歩しない?」



確か冬頃の話だった。飾利さんに誘われて、あたしは近所を散歩することになった。


最近はあまり負担をかけないように、わざと会いに行かないようにしていた。


……それに、飾利さんと伊吹の時間を奪ってまで会うことなんて……あたしには出来なかった。




あたたかな手で私の手を引き、光の下へ連れ出してくれる、誰よりも太陽の光が似合う人。




「ねえ、小宵ちゃん。春明さんのこと、すき?」


「え、」



不意に訊かれて顔を上げると、飾利さんは微笑みながら今一度「すき?」と首を傾げた。



「はっ、はい!もちろんです」


「じゃあ伊吹のことは?」


「すきです!」


「そう。よかった、それなら安心ね」

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