第67話

指先でその花弁を思わず撫でる。


綺麗な花。美しい花。


それでいて飾利さんのように可愛らしく、凛としていて、こんな人になれたらなと常々思う。


そんなことは、無謀な願いだけれど。



「クレオメの花言葉は」



―――クレオメの花言葉は、ね。と飾利さんは言っていた。



「〝秘密のひととき〟」



―――だから、この時間は、誰にもバレてはいけないし、誰にも知られてはいけない。伊吹や春明さんにも内緒よ?



「ここにいることは」



―――ここにいることは、小宵ちゃんと私の、



「ふたりのひみつ」



―――二人の秘密、なんてね。



「な、なんて……なんか変なこと言っちゃいました、ね」



笑いながら、繋いでいた手を解き頭を掻こうとすれば、彼はその手を握り返して、首を振った。



「変じゃない。全然」



そうしてこちらを真っすぐと見て、彼は続ける。



「……俺は」


「……」


「誰にも言わない」


「……」


「このこと、誰にも」



静かに言い終えて、彼はゆっくりと顔を逸らす。


きっと、本当に誰にも言わないつもりなのだろう。


そんな意思が感じられて、あたしは迷った末に「あたし、も」と答えた。



「あたしも、言いません」



これから先、あたしか彼が口にしない限りこの時間のことは、もう誰も知らないのだろう。

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