第66話

まるで迷路のような屋敷の中で歩を進めていると、ふと中庭の景色が目に映った。


こんなに立派な庭は初めて見たかもしれない。とよそ見して歩いていると、廊下に飾ってあったお花の置いた台にぶつかりかけた。


はっとしてその花瓶を支えようとすると、彼が先にそれを押さえる。



「あ、ありがとう、ござい、ます……」



お礼を言って、不意にその花へ目を向ける。見覚えのある花だった。


蝶が舞うようなその見た目はまさに美しいもので、あたしの視線を奪うには十分に綺麗な花だった。



「……どうしたの」


「このお花、しってますか?」



彼が首を振る。あたしは一度彼へ目を向けて、少し微笑んで答えた。



「クレオメって言うんですよ」


「クレオメ?」


「はい。ちょうちょみたいで、かわいくないですか?」


「……ちょうちょ?」



彼は少し訝し気な顔をした。きっと、彼にはそんな風には見えていないのだろう。感性は人それぞれだから、彼が首を傾げているのもなんら不思議なことじゃない。



「かざ、あたしの……お母さんが、お花が好きで、あたしも好きなんですけど……」


「……」


「それでよく、花言葉とか教えてもらうんです」

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