第61話
驚いたように彼の目が見張っている。
それもそうだ。ドレスの裾も気にしないまま床に座り込むなんて、女の子としてやってはいけないことだ。
紛らわすようにして、笑ってしまう。
「やっと、ちゃんと目があいましたね」
へらりとしたまま頬を掻くあたしへ視線を合わせた彼が「ぁ、」と今度はぎこちなく口を開いた。
「な、んで……」
「あ……えと、こうしたら、目が合うかな、って」
「……」
「……?」
「へ、」
「へ?」
「へん、なの……」
今度はあたしが目を瞬かせる。彼ははっとしたように口を押さえて「あ、すみま、せん」と少し動揺したように謝っていた。
「へ、へん……」と固まっていると、彼はすぐに「い、や」と言葉を続ける。
「だれも、俺と目は合わせないから……」
「……」
「へんな、かんじ」
逃げるように、目が逸らされる。いや、逃げてるのではなく彼なりの防御かもしれない。
あたしもよくやっていた。機嫌悪い時の母と目を合わせないように過ごすのは日常茶飯事だった。
あたしにとって目が合うということは認識されるってことだった。
攻撃の対象とされてしまう、反面、もし逸らされでもしたら、存在をも否定されてしまったかのように感じる。
どう転んでも、目が合うことは一概にいいこととは思えなかった。
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