第60話

「ご、ごめんなさいっ」


謝っても、彼は何も言わずにただじっとそこに立っている。



「だいじょうぶ、ですか……?」


探るように言えば、彼はようやく瞬きをして「ぇ、」と小さく声を零した。




「ぁ、えと、」


「……」


「ゆ、ゆか、がつめたかった……と、おもい、まして……」



言いたいことはそんなことじゃないのに。


もっと、違うことを言ったほうがいいのに。


それしか出てこなかった。


途切れ途切れで言葉がまるで聞き取りづらいだろうに、彼は閉ざしていた口をゆっくりと開いた。



「……きみ、の」


「……え?」


「きみのほうが、冷たかった、でしょ」



その子の視線がドレスの方へ向かっている。



「あ……いえ、大丈夫です……これくらい、なんとも!」


首を振れば、「……申し訳、ありません」と彼は頭を下げた。


丁寧に頭を下げられて「え、」とぎこちない声が出る。その姿が、やっぱり子供らしく見えなかったからだ。



「……ぁ、」


「……」


「あの、頭、上げてくださいっ」


「……」


「あなたは、なにも悪くないんですよ!」



身振り手振りで伝えようとしているのに、その頭を上げようとしない。


謝ることに慣れているその姿がやっぱりあたしと重なる。




「……」



意を決してしゃがみ込んで、その顔を覗き込む。


頭を下げたまま彼は、視界の中にあたしが入り込んだことにびっくりしたのか、少し肩を強張らせていた。

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