第53話

「その、だから、くつを……」


「そんなことを私は頼んでいないよ。提案だってしていないし、別に私は怒っているわけでもない。全て勝手に動き出したのは、この子だ」



心臓が、痛い。死ぬほど。地に足がついていない感覚というのは、こういうことを言うのだろう。胃の中がぐるぐるして、気持ち悪くて吐きそうだ。



「なのに、君は私が悪いように言うんだね」



ごめんなさい、飾利さん、春明さん、伊吹。


せっかく、こんなあたしによくしてくれたのに。


あたしはまた、迷惑をかけようとしてしまっている。


本当は注目なんて浴びない方がいい。


この男の人に謝罪して、さっさとここから離れるべきだって思う。


でも、どうしても。


この味方がいない、この状況に取り残された彼が、孤独な自分と重なって見えてしまって、どうにも止められなかった。



「……ちが、います」



あたしの答えを聞いて、少し満足気な顔をしそうになったその人にすぐに「みんな、わるいです」と付け足した。


誰も止めない……誰も守ってくれない……みんな遠くからみてるだけだ。

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