第51話

誰も、何も言わない。


みんな、この男の子より大人のくせに。


ずいぶん偉いはずなのに、何も言わない。


長い物に巻かれて、もう善悪の判別もつかないのだろうか。


なんで、と思ったと同時に、彼がゆっくりと膝をついた。


あたしの服からぽたぽたと落ちる飲み物のせいで、床は汚れているというのに。



土下座だ、土下座をする気なんだ。そう思った時には遅くて、彼はそのまま「申し訳ございませんでした」と謝罪した。


感情がまるで見えない声音だった。


あたしよりは大きいとはいえ、子供の小さな背中を見て、誰も何も思わないのだろうか。


綺麗な黒髪が床についた姿を確認したあと「それでどうするんだ」と彼の兄が次を促していた。


顔を上げて、そのまま男の人の靴もとに近づいていく。



なんだ、この異様な光景は。


どうして誰も止めないんだ。


だって彼は背中を押されて、不可抗力で飲み物を零しただけだ。


汚れたのはあたしで、この人の靴には少し水滴ついただけだ。


状況から見てもこの男の子がここまでする必要なんて、あるだろうか。


「失礼します」と、やっぱり何も感情が見えないような声音でその子が呟いた。


そして、ゆっくりと彼が背中を丸め、靴に近づこうとした時、

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