第50話

「何、どうしたの?」


「まあ!あの子、八神様の靴に……!」


「っなんてことを!」



次々と非難の声が飛ぶ。その様子を見て、「大変申し訳ありませんっ」とお兄さんが深々と頭を下げた。


黒髪の彼も、無理矢理頭を押え込まれて強引に下げさせられる。



「八神様、父がいない時にこのようなこと……許していただけるなら、この弟が土下座でもなんでも……その靴だって舐めて綺麗に差し上げることもいたしましょう」



え、と思わず顔を向けてしまう。


何を言ってるんだ、この人……。


という気持ちで見ても、その人はあたしの存在など眼中にないとばかりに「だから、どうか許していただけませんかっ」とまるで切実な謝罪をこの男の人に向けるだけだった。



「……晴一くんがそう言っているが、君はどうする?」


「……」


「優しいお兄さんじゃないか」



許される選択肢を用意してくれるなんて、という言葉が続きそうなほど、その男の人の声にはどこか含みがあった。


いつの間にか、会場は静まり返っていた。様々な視線がこちらに、いや、彼に突き刺さる。


彼がこの後、どういう動きをするのか、皆がただただ見物していた。

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