第49話

「とんだ粗相を……お父様があれだけお前に期待して、八神様にもあんな風に言っていただけたのに、いくらこういった場が気に入らないからってあんまりじゃないか!」



お兄さんの言葉に、彼は何も言わない。


気が動転しているのか。それとも、何も言えないのか。ただただ、あたしを見て、その目を見張るだけだった。


どうしよう、あたしから何か言わなきゃ。



「っあ、の、だいじょう、」



そこまで口を開けば、「……これは」と後ろから男の人の声が聞こえた。は、っとして振り返る。


あまりに必死で、忘れかけていた、けど。



あたしは、やってはならないことをした。


話をしている人の間に、強引に割って入ったというマナー違反をしてしまった。


心臓が、ドッ、ドッ、ドッ、と地を這うような低い音で、深く大きく鳴っていた。



「どういうことかな」



あたしに言っていると思っていた。けれど、振り返ってわかる。その目は、この男の子を見ている。


どういう、ことって……と思いながら、不意に床を見れば、男の人の靴に少しだけ飲み物が跳ねていた。


まずい、と子供ながらに察してしまう。



「鷹月の息子さん」



名前で呼ばないのか。どうして、と思った時、鼻で笑うような音が微かに聞こえた。彼の兄だ。

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