第48話
服の裾持って、さらに急ぐ。
そして、あと数歩と言うところでついにあのお兄さんは素知らぬ顔で思いっきり自分の弟の背中を押した。
まるで他人に押されたふりをするお兄さんを、止めることは出来なかった。
身代りになって、押されるのは自分になろうと思ったけど、それも間に合わなかった。
だったら、と。
スローモーションに見えるその世界で、あたしはどうにか強く足を踏み込んで、そのままその彼と、八神さん、と言われていたその男の人の間になんとか割り込んだ。
グラスから零れた飲み物が、あたしの服に容赦なくかけられる。
そこにいたみんなが、驚きを隠せないでいた。
「っ、」
よ、よかった、間に合った……。
気づけば「は、っ」と息が弾んでいた。急いでいた間、息を止めていたのだろう。
顔を上げると、少し長めに伸びた前髪の隙間からその男の子が驚いたようにあたしの顔を見ていた。
見え辛いけど、目の色が綺麗な男の子だと思った。
「っ翡翠、お前……何をしてるんだ!八神様の前で……!」
彼の背中を押したのは、お兄さんなのに。
まるで、自分は関係ないとばかりにその男の子の肩を強く握っていた。
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