第47話

だめ、だめだ。あの男の子にとって、この空間に存在する全ての者が敵だと思った方がいい。


だから、たとえ彼が粗相を起こしたわけじゃなくても、非難の目は確実に彼に集中するだろう。


あのお兄さんも、それがわかっていて、わかった上で、ぶつかろうとしている。



ヒールのついた、子供の用のパンプスから音が鳴る。こんな歩き方してはだめだ。


下品になってはいけない。もっと淑女らしくしなければいけない。


わかっている。わかっているけど、どうしても音が鳴った。


談笑する人たちの間を縫うようにして歩くあたしを「まあ」「どこのご令嬢なの」「はしたない」と、大人が次々と咎めていたけど、それどころではなかった。



ぶつかる、ぶつかってしまう。


もう、あと少しで。


だめだ、持っている飲み物を置いて、と叫んで伝えることも叶わない。


そして、その男の子の前を、よりにもよって、このパーティーの主催者であるあの男の人とその息子が通りかかるところだった。


立ち止まった男の人がその子に向かって、「君は」と口が開く。



何を言う気だろう。何を言われるのだろう。


視線があまりそこに集まっていない今、あの黒髪の男の子に、その冷たい目で何を言う気だろう。

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