第46話

この場所の居心地は相変わらずいいものではないけど、伊吹が隣にいてくれるだけで大分マシだった。


いくつか会話を交わしたあと「さっき、凄かったね」と言われて、伊吹もあの様子を見ていたのだと知った。



「……あ、そうだね。きっと偉い人たちなんだと、」



思う、と。あたしがそこまで言った時、先ほどあの中心にいた、黒髪の子のお兄さんが前方から歩いてきているのが見えた。


そして、


「……ふざけるなよ、あいつ」


すれ違いざまに、あまりに恨みの強い呟きが聞こえた気がして、びく、と肩を揺らして振り返ってしまう。


そんなあたしに気づくわけもなく、そのお兄さんはテーブルに持っていたグラスを置いて、そのまま早足に弟の元へ向かっていった。


弟はちょうど飲み物を持っていて、その彼の周りには着飾った大人たちがたくさんいる。


嫌な予感がして、目が離せない。


お兄さんの動きを注視しているあたしに、伊吹は「どうしたの?」と不思議そうに首を傾げていた。



あれは、ぶつかる、気だ。


あの男の子に。


あの憎悪に塗れた目をあたしはよく知っている。だって、よく向けられていたから。



「? 姉ちゃ……え?」


持っていたグラスをテーブルに置いて早足に追う。

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