第43話

男の人がそこまで告げた瞬間、騒めく周囲の人々。ついに訊いたぞ、と言わんばかりの会話がいたるところで聞こえた。


そして、その話題の中心にいるその子は、周りの様子を特に気にする素振りもなく、ただ一点を眺めて微動だにしない。


時間が過ぎ去るのを待つ、人形のようだった。



「……翡翠は」


その子のお父さんがゆっくりと口を開く。少しも余計な動きを見せない静かな息子を一瞥して、そのまま言葉を続けた。



「物覚えも良く頭の回転も速い子で、親の贔屓目を差し引いても才に恵まれた子だと思っています。遣える時が来たら、必ず立派に役割を遂げるでしょう。加えて綾人くんとは同年齢になります。いずれ必ず、役に立つ人材になると思いますよ」



答えになっていないそれは、まるで息子をモノ扱いするようなものだった。


褒めているようで、その実はまるで違う。プレゼンでもしているかのようだ。


不意に、あの色素の薄い髪色をした品のある男の子がゆっくりと黒髪の彼を見た。


さっきまで視界にすら入れていなかったのに。表情にこそ出さないけれど、その目はまるでどこか仄暗さを孕んでいるように見えてならない。


加えて、彼の兄らしき男の子が、少しこめかみを揺らして静かな弟を見遣る。その意図は、きっと誰も汲み取れないだろう。


この空間には、あの子にとって敵と呼べる人間しか存在しないように見えた。

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