第38話
学校で噂されるものと同じような会話が飛び交う。
知らないふりをしても、やっぱり耳に入ってくる。わざと聞こえるように言っているのか、それともあたしの耳が良いのだろうか。
こういう時、あたしはやっぱり。よそ者なんだと思い知らされる。
でも、それでいい。思い上がらなくて済むから。
わきまえなきゃって、あたしは水波の人間にはなり切れはしないのだ、と思い出させてくれるから。
どれだけマナーを学んでも、それなりの振る舞いをしようとも、生まれがそもそも違うのであれば、努力したって、なんの意味もない。
だからと言って、自暴自棄になる必要もないし、他人の評価を気にして、今の自分を支えてくれる人を大切にしないような人間にはなりたくない。
飾利さんが体調を崩してから、春明さんも、伊吹も元気がない。せめて、あたしがしっかりしなきゃ。
今まで支えられてきた分を、あたしがお返ししていかなきゃ。
「……大丈夫?」
「え?」
「つまんないでしょ?こういうの」
隣を歩いている伊吹が、こちらを窺うようにして訊ねてくる。さっきまで春明さんの後について、挨拶回りをしていたから疲れているだろうに、こうしてあたしの心配をしてくれる。
きっと聞こえているんだ、この子にも。
大変な思いは自分だってしている筈なのに、あたしのことまで心配させてはいけない。
「……平気だよ。伊吹の方が疲れてるでしょう?ほら、あそこにあるケーキ食べに行こう。きっとおいしいよ」
「……なにそれ」
手を取って引っ張れば、伊吹は小さく笑った。
子供らしくあどけなさの残る表情の中で、本人にとってあまり得意ではない綻んだ表情が、あまりに可愛らしく、あたしは「ほら行こう」と笑顔で前に進んだ。
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