第27話

「っ、おかあさんっ!!」


大きな声で呼びかければ、その背中が少しだけ強張ったことがわかった。



「……あんたなんて生むんじゃなかった」



何度も聞いたその言葉はもうどこにも刺さらない。


「ま、って」というあたしの言葉はこんな時でさえ小さい。




「いらない子のくせに、死にたくないなんて生意気言うんだもの」


「まって、待って、おかあさん、」


「何もかもどうでもよくなった」



聞こえてくる声は、どこまでも覚めていて、どこか震えている。


ねえ、お母さん。本当に置いていくの?


待って、待ってよ。



「もっと、うまくやり、ますから、だから」


「だから、安心してよ」



被せて言う。振り返った母は、そのストールを風に吹かせて、飛ばした。


まるで未練がないとばかりに。


その姿を、どう形容したらいいのだろう。



「あたしね、あなただけじゃなくてこの世の全てが嫌になったの」


あたしの言葉はどこまでも母に届いちゃいなかった。



「あの人のところへ、未練なくいけるわ」


そう言って、母はずっとあたしが求めていた笑顔を最後の最後で向けてくれる。



「じゃあね、小宵」



名前を呼んでほしかった。こんな形じゃなく、ちゃんと。


あたしを愛してくれていた頃のように。



「おかあさんっ!!!」

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