第26話

「あたし、死にたくない……」


「……」




思わず口にした言葉に、母は止まった。飾利さんたちも動きを止めていた。


あたしはそこで、はじめて、自分の母に意思表示したのだ。


暫しの沈黙のあと、母は「ハッ」と鼻で笑った。



「お母さんなんて、呼ばないで」



不愉快そうに言って、あたしに向かってナイフを投げ捨てる。頬が切れて、血が出てしまっても、あたしはこれ以上何を言えばいいのかわからなかった。



許されたかった。


笑って欲しかった。


ただ、頭を撫でて、あたしの名前を呼んでほしかった。



「………もうつかれちゃった、なにもかも……ぜんぶ、消えちゃえばいいのよ…」



あたしはそんなに贅沢を願ったのかな。



「………あなたも、みんな、みんな……」



いい子に、してた、はずだ。


なのに、世界はこんなにも。



「死んじゃえば、いいのよ」



不公平に出来ている。


母はあたしを横目で流すように睨むと、そのまま狂ったように笑って部屋から出て行った。


あたしはその後を急いで追いかけた。母は自室の窓を全開にしてベランダに裸足のまま出ていた。


あたしが今日花瓶に生けた花は床に落とされて、ぐちゃぐちゃに踏み潰されていた。


まるで母の心のように。今のあたしのように。

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