第28話
劈くようなあたしの叫び声のあと、ドンッと窓の外で音が鳴った。
「灯利さんっ!!」
「姉さん!!!!!」
まるで入れ違いのように部屋に入って来た春明さんたちが急いであたしの横を通り過ぎて窓の外を覗き込んでいく。
「うそよ、うそよぉ……!」
「おい!!急いで救急車を……っ」
忙しなく回る世界の中で、あたしの周りだけ、まるで時が止まったかのようだった。
そんな立ち尽くしたままのあたしの手を、
「っ、小宵!」
と、思いっきり引っ張ったのは伊吹だった。初めて名前を呼ばれたというのに、嬉しいはずなのに。
あれ、なんだろう。これ。
ぽろぽろと、目から涙が止まらない。
頬からぽたぽたと涙が落ちて、床に染みていく。
怒られるから、あまり泣いちゃいけないのに。
怒られるから、床は汚しちゃいけないのに。
感情が迷子のまま口を開いたけれど、声は出なかった。
喉を触って「っぁ」と出た声は震えていて、どうしてか伊吹まで泣きそうな顔をしていた。
そして、あたしの手を強く握って「小宵は悪くない。悪くないよ」と繰り返し言ってくれた。
泣くな、とも。声を出すな、とも言わず。
ただ、あたしが自ら動き出すことを待ってくれた。
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