第24話

夏の日だ。


あたしは自分には似合わない夏の日に生まれたのだ、とこの季節がくると必ず考えてしまう。




「あら、小宵ちゃん。それは?」


「あ、これはお母さんに……」


「自分のお誕生日でもお母さんへプレゼントか……小宵ちゃんは本当にいい子だね」



庭で花を弄っていた姿を見られてしまったのか。春明さんにたどたどしく答えれば、笑顔で言われた。


いい子じゃない、これは全部、全部、自分のためだ。


尽くせば尽くした分だけ、自分が悪く言われなくなる。


つまりそれは、意図的に評価を上げているだけだ。


あたしが、本当はいくら悪い子でも、表面上だけでもいい子でいれば、いつかはきっと誰かがあたしを受け入れてくれる。


ただ、それだけのためにいい子を演じ続けている。



「小宵ちゃん、お誕生日おめでとう」



そんな悪い子なのに、この人たちは、あたしがこの世に生まれ落ちたことを祝ってくれた。


まだあたしはここにいてもいいんだよ、って、心から思わせてくれる。


願わくば、これからもずっと、


ずっとずっと、この人たちと一緒にいれたら、どんなに――――。




「いやあ、本当に今日はめでた」


「全然めでたくない」


テーブルを囲んで、ケーキを切ろうと使用人がナイフを手に持った時だった。

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