第23話

「っ、あ、の……み、水波、小宵、です。よろしく、お願いします」



言い慣れない。初めて口にしたその苗字は、いまいちしっくりとこなくて、けれどくすぐったくて、早く口に馴染むように何度も何度も練習したのに、やっぱり違和感があった。


春明さんが手続きをしてくれたらしいけれど、あたしはこの学校で〝水波〟と名乗るように言われていた。


伊吹とは姉弟ということで、この学校では通っているらしい。仕方ない。


前の学校ですら煙たがられていたのだから、こんな格式のある学校で、両親のことが知られてしまえば、どんな目にあうか。


子供でもそれはわかった。


あたしはきっと、これから。


あの〝家族だった人たち〟を隠していかなければならないのだと。


あたしはそれに罪悪感は抱かなかった。


だって、そうすれば、あたしはまたちゃんとした人生を歩んで、それで、きちんといい子になって、またお母さんの傍に行けばいいと思っていたからだ。


そんな浅はかな考えが狂っていたのだと気づいたのは、九歳の誕生日に母が死んでからだった。

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