第23話
「っ、あ、の……み、水波、小宵、です。よろしく、お願いします」
言い慣れない。初めて口にしたその苗字は、いまいちしっくりとこなくて、けれどくすぐったくて、早く口に馴染むように何度も何度も練習したのに、やっぱり違和感があった。
春明さんが手続きをしてくれたらしいけれど、あたしはこの学校で〝水波〟と名乗るように言われていた。
伊吹とは姉弟ということで、この学校では通っているらしい。仕方ない。
前の学校ですら煙たがられていたのだから、こんな格式のある学校で、両親のことが知られてしまえば、どんな目にあうか。
子供でもそれはわかった。
あたしはきっと、これから。
あの〝家族だった人たち〟を隠していかなければならないのだと。
あたしはそれに罪悪感は抱かなかった。
だって、そうすれば、あたしはまたちゃんとした人生を歩んで、それで、きちんといい子になって、またお母さんの傍に行けばいいと思っていたからだ。
そんな浅はかな考えが狂っていたのだと気づいたのは、九歳の誕生日に母が死んでからだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます