第22話

「まっ、まって伊吹……!やっぱり、あたし……ぅっ」


「おいていく。じゃあね」


「はっ……おいていかないで……」




おろおろとするあたしを置いて、ずんずんと先を進んでいくあたしより一つ下の男の子。肝が据わっていて、さすがとしかいいようがなかった。


もうすぐあたしは九歳になるというのに、情けない。



洸瞑学院は前いた学校とはやっぱりレベルが段違いだった。送迎は車が当たり前だし、学校までの道のりは煉瓦道で、そこの道を縁取るように整備された草木。


途中にあった物凄く大きな噴水に「わっ」と驚く。建物の豪華な装飾に、品のある生徒たち。


そしてどこかしこで飛び交う「ごきげんよう」のご挨拶。本当の本当に別世界だ。



「ま、待って……」


「……遅い」



溜息を吐き出しつつも、あたしのことをしっかり待ってくれている。


まるで本当の弟のように、「いい加減にしてよね」とちくちくあたしの不甲斐なさを指摘した。


そもそも家族と出かけることもなければ、滅多に家からも出ない。


幼い頃から学校の中だけがあたしの中の常識だったので、世間知らずだったことに間違いはなかったけれど、この洸瞑学院がその基準になるのは、恐らく違うのだろうといくらなんでもわかっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る