第19話

この人はやっぱりあたしの母だから。


心配だから。


もう一度、一緒に過ごすことが出来たら、その時はちゃんと愛してもらえるように努力するから。


だから、会いに行った。


……いや、本当にそうだったのだろうか?


そんな健気な考えは、本当にあたしの望みだったのだろうか?


あたしは、本当に、この人と共に過ごしたかったのか。


もうそれさえも、いくら振り返ってもわからない。


本当の気持ちが、わからなかった。





「憎らしい……本当に……」


もう何年、真正面から目を合わせていない。



「あなたさえいなければ……あの人はずっとあたしの元にいてくれたのに……」



こっちを見て、お母さん。


そんな我儘すら、容易く言えない関係。



「あなたさえ、あんたさえ……」


これが家族だと言うなら、あたしは―――。




「っ、げほっげほ!!げほっ」


「!? お母さん!?だいじょっ、」


「近づかないで!!!」




頬を打たれて、腰が床についた。背中に当たった棚から花瓶が落ちてきて、あたしの肩にぶつかってそのまま床にごとりと落ちた。


肩に広がる痛みとともに、ひんやりとした水がじわじわと服に染み込んでいく。


どうしよう、この服……飾利さんが用意してくれたものなのに……。


なんて言って謝ろう。お金はないから、買い直すなんてことは絶対に出来ない。


顔を上げて、母を見る。


髪の毛の隙間から見えた母の顔は何故か怯えていて、「なによ……その目は……」と震えた両の手を擦りながらこちらの様子を伺っていた。

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