第18話

そんなことを思っては、ダメだとわかっているのに。


止まらない。この人たちの家族になりたい。


でも、いけない、お母さんが一人になる。それでは可哀そうだ。


そんな考えを幾度も巡らせては、打ち消した。







「何がそんなに楽しいの?」




今日は、一週間に一度の母に会える日。


今日は母の体調が大丈夫な日の、はずだ。


背中に汗が滲んだ。飾利さんから貰った花を花瓶に生けながら、何か失敗でもしてしまったのだろうかと、一気に怖くなった。



「……お母さんにお会いできる日ですから」



にっこり笑って、まるで無邪気な子供のように駆け寄る。いい子でいれば、機嫌さえ損ねなければ、母はあたしにだって笑顔を向けてくれるはずだ。


そんな考えは、母にとって小賢しく、あさましくもあるはずなのに、この頃のあたしにはそんな考えしか及ばなかった。


伊吹の様に賢く、察しがよく、なるべく、鈍臭くならないように。


そうすれば、そうすればきっと。




「…………こっちはあなたの顔すら見たくないっていうのに、なんの当てつけなの?」


やせ細った身体を大き目の服ではもう隠せてすらいなかった。


この面会も、本当は母も、飾利さんたちも、もう望んでいないのではないだろうか。


それでもあたしはこの人に会いに行った。

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