第17話

不意に訊ねられてそちらを見る。「え?」と首を傾げるあたしに、伊吹は続けた。



「なんか、大人がするみたいな話しかたする。へん」


「………そう、ですか?」


「うん。前のがよかった」


あたしに比べて、伊吹は正直な子供だった。まるで全ての正解を知っているかのように、




「………」


「でも、それだ……と、いいこじゃなくなる、から」


俯きながら、声が小さくなる。伊吹は少し間を空けたあと「……じゃあ」と短く口を開いた。



「俺の前では、しなくていい」


「え?」


「……」


何も言わなくなる。伊吹は口数がそんなに多くないので、あたしは迷いながら「わ、わかった」と頷いた。




「あら、二人ともこんなところにいたのね」


ふふ、と笑って飾利さんが、建物から出てきてあたしたちの前にやってくる。



「食事の用意が出来たみたい。二人ともお昼にしましょうか」


「うん」


頷く伊吹に合わせてあたしも頷く。そんな様子を見てまた微笑んでくれる飾利さん。まるで本当のお母さんみたいに優しくて、あたたかい。


ずっと思わないようにしていたけど、この頃あたしは無意識に考えていた。


この人が、本当に私のお母さんだったらどんなにか、なんて。

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