第16話
もう、お母さんと一緒に過ごすことはないのだろうか。
そんなことを聞いてみれば、「そうね。姉さんが、もっと強くなったら暮らせると思うから、それまで一緒に待ってよう」と飾利さんは告げる。
あたしは頷きながらそんな日々が来ればいいと、この頃は馬鹿正直に、願っていた。
「大丈夫?」
「あ、伊吹くん」
庭で花を眺めていたあたしを塞ぎ込んでいたと思ったのか、伊吹は声を掛けてくれた。あたしは八歳、伊吹は七歳の頃だった。
春明さんにすすめられて、一緒に武道の習い事をするようになってからは昔以上に話すようになった。
「お庭の花がきれいだなって、思って、出てきちゃいました……もう、戻らないといけない時間ですか?」
「ううん、ぜんぜん」
淡々と答えて、静かにあたしの隣に座る。昔から伊吹は物静かな男の子だった。
何を考えているかわからないけど、でも、何も話さない時間が苦だと思ったことは一度もなかった。
それにとても賢くて、心配になるくらい気が利く子で、先ほどの〝大丈夫?〟という問いも、きっといろんなことにかけているのだろう。
こんな子だったなら、お父さんもお母さんは満足したのかなと不意に考えるようになった。
「……ねえ」
「はい」
「その話しかた、なに?」
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