第14話

その日以来、この世の絶望を見たとばかりに母の目は虚ろになり、あたしの顔は一切見なくなった。


父が、浮気していた女性と事故死したのだと理解したのは、それから大分経ったあとの事だった。




喪服を着た母が、あたしの手を繋ぐこともなかった。


遠くからこちらを眺める春明さんたちはただ居た堪れない顔をしていた。


涙は、ひとつも流れなかった。流せなかった。


だって、悲しんでもお母さんを元気に出きやしないと思ったから。



励まそう。だって、お母さんを支えるのはもう、自分しかいないから。


スカートを握り締めそうになって、けれどそれさえもやめて「おかあさん」と声を掛ける。


大丈夫だ、よ…大丈夫、ですよ。


口調が迷っていた。それでも笑顔を保っていれば、頬をぶたれた。




「なんで笑ってんのよ、あたしの愛する人が死んだのに!!!!」


「姉さん!!何して……っ」



地面に倒れ込んだあたしに飾利さんが駆け寄る。



「そうね、そうよね!しょせん、あなたを捨てた父親だもの、笑えるわよね、そりゃ……!」



長い黒髪をぐしゃぐしゃにしながら、顔を両手で塞ぐ。その指の隙間からあたしを睨みつけて、行き場のない憤りをその吐き出した。

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