第7話
父がいない時は、空になったペットボトルが乱雑に床の上で転がっているような家だった。
たくさんのゴミの中に破かれて散ったままの離婚届けが、どういう意味を成す紙かよくわかっていなかった。
いや、今思えばわからないふりをしていた。
伊吹のお父さん、春明さんが誕生日にプレゼントしてくれた真新しいランドセルを握り締めて、あたしは俯いた顔を上げながら「ただいま、お母さん」と笑って声をかけた。
「お父さん、今日も帰って来ないんだって」
母がぽつぽつと告げた。
冷蔵庫の中には、春明さんの家から送られてくる食材で埋め尽くされている。お金を全て父に渡している母が何か食材を買ってくることはない。
それを見兼ねて、飾利さん伝手に春明さんが送ってきてくれているのだろう。
子供のあたしに事情はわからなかったけれど、今なら理解出来る。
「お母さん」と名前を呼んでも見向きもしない。母が愛しているのは、昔から父だけだった。
「またあの女のところかしら、小宵はどう思う?」
何も答えない。答えられない。「お母さん、こよいね」と話を逸らそうとしても、溜息を返される。
迷惑をかけないように、嫌われないようにしなきゃ。
「ううん、なんでもない…なんでもない、〝です〟」
へらへらと笑いながら、ランドセルを部屋の隅に置いた。
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