第88話

柔そうな長めの前髪が、コノエくんの目元を隠す。


言葉からいつもの棘が感じられない。




ど、どうしたんだろう…、コノエくん。




「アンタだと、そういうの感じない…」



「そう、いうの…?」



「こうやって、アンタの手、掴んでも、ぞわぞわしないし、気持ち悪くもない」



「…………」



「わけ、わかんない、…自分でも」




あたしの手首から、コノエくんの手が、そっと離れていく。



本当によくわからない、とでもいうような口調に。


不思議に思い、その顔を覗き込むようにして、




「コノエくんは、女の人が…苦手なんですか?」



「………、苦手」




視線が交えることをしないまま、ぽつりと告げる。


まさか答えてくれるとは思わなかったから、あたしは少々驚いて、目を見張った。




「昔から、俺は、あいつらと、相性が悪い」



「あいつら…?」



「女」



「そう…なんですか…」



「幼稚園の頃から、なんかしつこく追い回されたり、物盗られたり、なんか叩かれたり散々で、」

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