第64話

「もしもミクかコノエちゃんとオサゲちゃんがキスすることになっても、怒らないでね?」



「………、」



振り返る伊吹に、トラくんは瞳を半月に細め、その口をニヤリと歪めた。




「別に怒りません。そのキモイ顔やめて下さい。それじゃあ」



「あら…(ホントに帰っちゃった)」



ちゃんとした体育館の入口から帰って行く伊吹を見ながら、トラくんは頭を掻き、「ま、いっか」と。




「あれ?丸岡。リュウとミクは?」



「あ、オサゲさんたち追っかけて行きましたけど」



「あー、俺は出遅れちゃったわけね」



「え、行くんスかやっぱ?」



「当たり前よーもちろん丸岡もね」



「えぇー…」



「はい。嫌そうな顔しないー。これは俺達のためのデータにもなってんだからー」



「ほんっとスかぁ~?ただ楽しんでるようにしか見えないんスけど…」



「気のせい気のせい。ホラ、行くぞー」



トラくんに半ば強引に引き摺られていく丸岡さんは、「いや、ちょ!」と、違う人の袖を掴む。


と、その違う人は、また違う人の制服を掴んでしまう。


まるで芋の蔓をたぐるようにして、ずるずると丸岡さんたちを引っ張り、トラくんも体育館を後にしたのだった。

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