伊吹は、溜め息を吐いた。

「早く帰りたいんですけど」

トラくんは、やれやれと首を振る。

「またか」

あたしはリュウくんに目を向けた。

「お知り合いですか…？」

どうせ、いつものようなことだろう、と。

あたしを含め、二人も思っていたはずだ。

いやきっと、

「え、とー…、ごめん。誰？」

リュウくんも。

『え、やば。この子の名前なんだっけ』と、リュウくんの顔には書いてあるように見える。

女の子マスターじゃなかったのか。

さっそく裏切られたような気分になってしまった。

少々落ち込みつつ、あたしは今一度、その女の子に視線を向ける。

すると、彼女。

リュウくんの反応を見て、クスリと愉快そうに口元を歪めた。

けれどもそれは実に一瞬で。

すぐに顔つきを変えた彼女は、

「ひっど～い！忘れちゃったのぉ！？アタシだよアタシィ！！」

両手でグーを作り、これでもかってくらい可愛い仕草をとって、こちらへと歩み寄ってくる。

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