かからない家(2)
「だ、誰ですか!? なんで、勝手に……!!」
家の前で話しかけて来た男とも違う、全くもって知らない人たちだった。
いつの間に上がり込んでいたのか、全く気がつかなかったし、そもそも、入ってすぐに内側から鍵を……かけたような気がするが————かけていなかったのだろうか?
そうだとしても、一応、今日からここに住む俺になんの断りもなく入って来るか?
「誰って、この村の人間に決まってるでしょう? あんたの方こそ、新参者だろう」
「そうだ。確か、山坂さんの遠い親戚だとかなんだとか」
「初めての土地で、何かと不便だろうから、わざわざ来てやったのに」
「これだから、最近の若者は!」
「す、すみません……」
まるで悪いのは俺のように責め立てられてしまった。
四対一の構図なのだから、そうなっても仕方がない。
「あんたね、どこから来たのか知らないが、この村には村なりの
「掟……?」
「そうだよ、掟だ」
それから矢継ぎ早に四人はゴミの回収日がいつだとか、冬に雪が降った時の除雪はみんなで協力してやるだとか、秋に行われるなんとかって祭りには男は全員参加しなければならないだとか、村の誰かが死んだら必ず葬式に出るようにとか、この家の山にある祠の話だとか、正月になったら神社で餅つきがあるだとか、祝い事があるときは交番の横にある寿司屋で必ず食事をしろ、黒い家には近づくな、この村で見聞きしたことは他の村のやつに話すなとか、そういう大小様々な掟をつらつらと俺に話した。
あまりに一度にたくさんのことを言われたので、それで全部覚えろなんてどう考えても無理だ。
途中から俺は適当にうなずいて聞いているふりをしてやり過ごすことにした。
右から左に受け流すとは、まさにこういうことだ。
「それじゃぁ、そういうわけで」
「あたしらはもう帰るから」
一通り話し終わったのか、四人は立ち上がり、ぞろぞろと玄関の方へ歩いて行った。
四人が出て行ったのを確認すると、俺はすぐに玄関の扉を閉め、鍵をかけた。
「なんだったんだ、まったく」
なんだかどっと疲れて、とても嫌な気分になった。
確かに、新参者ではあるし、この村のことを俺は何も知らない。
だが、まだこの村に来て数十分しかたっていないというのに、とても理不尽な目にあってた気がする。
こういうのって、こっちが引っ越しの挨拶に行ったりして、少しずつ交流を広めていくものなのではないのだろうか。
そもそも、なぜ呼んでもいないのに、勝手に他人の家に上がり込んでいたのか、わけがわからなかった。
段々腹が立ちながらも、家の中をもう一度ちゃんと確認しようと、仏壇があった和室の隣の襖を開ける。
こっちも和室で、重そうな介護ベッドが置かれていた。
一人で運び出すには苦労しそうな大きさだ。
そして北側に位置するせいか、こっちは陽があまり当たらないようで、和室や居間に比べると若干暗い。
和室には押入れの他に、もう一つ襖があったので、開けてみるとそこは台所につながっていた。
洗面所やトイレ、勝手口、また廊下に出て、今度は反対側の扉を開けると、子供部屋だったのか学習机のある部屋が二つあった。
ここも家具や玩具、棚やタンスの中のものもそのままという感じだ。
家の所有者は一応、俺の母ということになっているため、中にある荷物の処理も任されているとはいえ……かなりの量だなと思った。
まぁ、使えそうなものは隣町にあるリサイクルショップに持ち込めばいくらか金になるだろう。
「————すみませーん!」
売れそうなものがないか、棚の中を物色していると、玄関の方から男の声がした。
時間的に、ガス会社か電気会社の人だろうと、すぐに玄関の方へ出ると、予想通り作業服を着た人が二人立っていた。
「あれ……?」
だけど、妙なことに彼らは玄関の内側にいた。
鍵をかけていたはずなのに、どうして、玄関の中に?
「あの、どうやって、中に?」
「え? ああ、すみません。チャイムを鳴らしたんですが、まだ電気がなった感じがなかったので……仕方なく、中に入らせてもらいました。開いていたので」
「え、開いてた? 鍵……かかっていませんでした?」
二人は顔を見合わせて、この人は何を言っているんだろうという表情をしながら、言った。
「開いてましたよ。鍵なんて、かかってませんでした」
「それに、もとから少し、開いてましたけど————あえてそうしていたんではなかったんですか? 荷物の運搬とかでかなぁと……今日、引っ越して来たんですよね?」
確かに鍵を閉めたはずなのに……おかしい。
俺の、勘違いだったのだろうか?
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