第56話

その時、

ひやっとしたものが体全体を覆う。



…浮輪だ。



このハイビスカス柄の浮輪は、

確か優が買ってくれたやつだ。




後ろを振り向けば、

ニカッと笑っている優。




「浮輪膨らましとった。遅くなってごめんな!」


美嘉は浮輪でぷかぷか浮きながら、

唇を尖らせて答えた。




「別にぃ~!!」



バカ。

本当は寂しかったくせに素直になれっ!!

…と心で自分を応援する




優は浮輪に掴まり、

一緒になってぷかぷかと浮いた。




「寂しかったん?」



「寂しくないよっ!!」


バタアシをして、

優に勢いよく水をかける



「寂しかったからいじけとるんやろ?素直にならなこうするで!」



浮輪をくるくると回し始める優。



「ギャ!!目回るっ!!許してぇ~!!」




いつの間にか足がつかないくらい深い所まで来てしまっていた。




優は美嘉と同じ目線の高さまで体を下ろし、

浮輪を回す手を止め軽く抱きしめた。




「寂しかったやろ?」




優のひんやりとした肌が気持ちいい。




「…めちゃめちゃ寂しかったよっ!!」


優から目をそらし、

少し怒ったように答えた


やっと…

素直に言えた。

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