無知という名の罪
天使たちは円卓に囲んで議論を始めた。
議題は、無知、即ち罪業である。
「無知というのは、人が持つべき知識を持たずにいる状態を指してる。そして罪業はもちろん地獄に落ちるかを決める指標だ、人間が決めた法律ではなく」
「無知はもちろん罪よ、体にいいと思って子供に変なもの食べさせる親が今までどれほど見たか。審査する身にもなってほしいものです」
「その親は罪を犯してるけど別に無知が罪とはならなくない?罪が無知なだけで無知な人皆罪とは言えないと思うよ」
「いやいや、さっきから無知は状態を指していてその人とは言ってませんよ」
「でも罪を持つ人間は地獄に落とすんだよね?じゃあ罪人と罪業は何が違うの?」
「でも全知な人間は存在しない、そうなると人間は皆無知であるから地獄に落とすべきだということになるわ」
「定義は最初に言いましたよ。無知は持つべき知識が欠けてる状態を指すから、その結論には至らない」
「その持つべき知識というのがあやふやではないですか?どうやってその状態を判断すればいいんですか?」
「そこまでは、その、ケースバイケース?」
「じゃあこれはどう?定義を変えるの。無知は知らないのに知ろうとしない状態であると」
「それはつまり、思考を放棄するのが無知ということですか?」
「賛同する。たしかに、知っていながらと、知らずに知ろうとせずに罪を犯すのは違うことだ。我々が議論してるのは後者の方だ」
「そして、知らずに知ろうとせずとも罪を犯したことには変わりないわ。これで無知は罪業であると証明できるのではなくて?」
「異議を唱えたい。私たちが議論してるのはあくまでも無知ということのみ。例えば、無知である人が殺人を犯したとして、私たちが議論してるものに殺人という罪は関係ないはず」
「一理あります!そう言われたら、無知だけの状態は罪とは言いにくいと思います。天使が裁いてるのは無知から連ねた罪業であって、無知自体ではないような……」
しばらく場は静まり、天使たちは考え込んだ。
ある者は空気に耐えきれず、軽率に言った。
「そういえば七つの大罪にも無知はなかったね」
「そもそも原罪もそう、アダムとイヴは分かってて『知恵の実』を……」
これ以上は、と皆は口を塞ぎ、円卓を見回すばかりだった。
「うーん、でも結局私たちは天使だから、人間側の論点を採用していいの?」
沈黙が続いたのち、天使たちは皆合意に達した。
「まあ、神様の意見を聞いてその通りにしましょうか!
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