第十五話:守りたい気持ち
夜の静けさがエヴァ―フロストの宮殿を包んでいた。ノクティア・フロストナイトは、玉座の間の窓から外を見つめながら、リリアの言葉を思い返していた。
「伝統の中にも自由がある……」
リリアがコンサートを終えて語ったその言葉は、ノクティアにとって深い意味を持っていた。彼女自身、王家の伝統を背負い、感情を抑えることを学んできたが、友達を作りたいという願望を通じて、自分にも少しずつ自由を見つけ始めていた。
そんな思いにふけっているところへ、護衛騎士ダリオ・シャドウスノウが静かに現れた。
「ノクティア様、どうかされましたか?」
「ダリオ……リリアが言っていた言葉、ずっと考えていたの。『伝統の中にも自由がある』って……彼女の言葉に、とても感銘を受けたわ。」
ノクティアは窓の外を見つめたまま、感慨深くそう語った。ダリオは少し頷き、静かに隣に立った。
「リリア嬢の言葉は、確かに深い意味を持っていますね。私もその通りだと思います。」
ダリオは目を細めながら続けた。「私自身も、護衛騎士という役割や、過酷な幼少期、厳しい訓練の中で自由を感じることがありました。それは、ノクティア様を守るという、私自身が選んだ道でしたから。」
ノクティアは少し驚いたようにダリオの方を見た。
「ダリオが……自由を感じていたの?」
ダリオは静かに微笑んだ。「ええ。私が訓練を受けていた頃、周りの子供たちは多くが命令に従うだけで、ただ生き延びるために戦っていました。でも、私は違いました。どんなに厳しい状況でも、ノクティア様を守りたいという思いがあった。それが私にとって唯一の自由だったんです。」
ノクティアはダリオの目をじっと見つめた。彼の過去を知ることは少なかったが、彼がどれほど自分のために戦い抜いてきたか、その一端を感じ取ることができた。
「守りたいという気持ち……それが自由だったのね。」
ノクティアは思わず小さく呟いた。
「はい。自分の意志で誰かを守りたいと感じた瞬間、それが私にとっての自由でした。ノクティア様を守りたいと願うことが、私の生きる意味であり、自由そのものでした。」
ダリオはその言葉に確信を込めていた。
ノクティアはその言葉を聞きながら、胸の奥に新たな感情が湧き上がるのを感じた。ダリオは単なる護衛ではなく、彼女のことを心から大切に思っている。今までは友達がほしいと言ってくれたダリオに対して、自分はどれほど答えられていただろうか――そんな思いが胸をよぎった。
「ダリオ……」
ノクティアは小さく息を吸い、彼を見つめた。
「これまで、あなたが私を友達として支えてくれていたこと、本当に感謝しているわ。でも、もし私にとってもっと大切な存在でいたいと願うなら、それはどういう意味か、考え直さないといけない気がするの。」
ダリオは少し驚いた表情を見せたが、すぐに優しい微笑を浮かべた。
「それなら、私も同じ思いを持っています。ノクティア様、私はこれまではあなたの友達がほしいという要望に応えて友人でもあると言ってきました。しかし、今は私自身が、ノクティア様と対等な友人でありたいと思うんです。」
ダリオは目を閉じ、続けた。
「これからは、ただ守るだけではなく、あなたの隣で共に歩みたい。王女と護衛騎士ではなく、一人の友人として、あなたを支えていきたいのです。」
ノクティアはダリオの真摯な言葉に、心の奥で何かが大きく動いたことを感じた。彼が自らの意思で友達になりたいと踏み出してくれたことで、彼女は初めて自分自身の感情が深く揺さぶられるのを感じた。
「……ありがとう、ダリオ。私もこれから、あなたと対等な友人として付き合いたいと思う。今までは自分が友達を求めるばかりだったけど、あなたも私をそう思ってくれるなら……嬉しいわ。」
ノクティアは素直な気持ちでそう答えた。
ダリオは静かにうなずき、満足げに微笑んだ。「これからも、ずっと一緒に。」その言葉には、今まで以上に強い絆と、未来への希望が込められていた。
ノクティアもまた、ダリオの言葉に応じて微笑んだ。二人の間には、王女と護衛騎士という枠を超えた新たな関係が芽生えていた。
外を見ると、冷たい月光が静かに宮殿を照らしていた。ノクティアはその光を見ながら、リリアの言葉を思い返していた。「伝統の中にも自由がある」。その言葉は、彼女にとっても、ダリオにとっても、そして彼女たちの友情にとっても、まさに象徴的な言葉だった。
「伝統の中にも、自由はあるのね……私たちも、そうなのかもしれない。」
ノクティアのそのつぶやきに、ダリオは静かに頷いた。
「ええ、まさにその通りです。」
こうして、ノクティアとダリオの友情は新たな段階へと進み、二人の間に新たな絆が生まれた。彼らの物語はまだ続いていく――だが、この瞬間、二人は同じ場所に立ち、同じ未来を見据えていた。
氷と闇の王女は友達が欲しい! 〜寡黙な護衛騎士とのズレた友情奮闘記〜 スキマ @sukima_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます