第十四話:伝統と自由。友情の象徴

リリアがコンサートを終え、エヴァ―フロストに帰国して数日が経った。晴れやかな笑顔で戻ってきた彼女を見て、ノクティア・フロストナイトとダリオ・シャドウスノウは心の中で安堵の息をついた。


◆  ◆  ◆


今日は、リリアからコンサートの報告を聞くため、ノクティアとダリオは音楽堂で彼女を迎えることにしていた。


リリアが姿を見せると、その表情には疲労の色がありながらも、どこか輝いて見えた。彼女はノクティアとダリオに駆け寄り、深々と頭を下げた。


「ノクティア様、ダリオ様……本当にありがとうございました! コンサート、大成功でした!」

リリアの声には感激が込められていた。


「そう、成功したのね! 本当に良かったわ。」

ノクティアは微笑みながら、リリアを迎えた。


「はい! あの……王女様がくださった手紙とペンダントが、本当に力になりました。ステージに立つ直前、ペンダントを握りしめながら、自分を信じて演奏できたんです。それがなかったら、あんなに堂々とできなかったと思います。」

リリアの目には、感謝と喜びの涙が浮かんでいた。


「そんなに役立てたなら、私も嬉しいわ。だけど、リリアの努力が実を結んだ結果よ。私はほんの少し、背中を押しただけ。」

ノクティアは優しい笑顔でそう答えた。


リリアはその言葉に少しだけ頬を赤らめ、再び頭を下げた。


「実は、私……今まで音楽に全てを捧げてきたけれど、友達を作ることや、どう人と接していいのか分からなくて。音楽を通して感情を表現することが全てだったんです。でも……」

リリアは少し息をつき、勇気を振り絞るように言葉を続けた。「ノクティア様のように、心を込めた言葉や、温かい接し方に憧れていました。だから、こんな私が王女様と友達になれるなんて……恐れ多いと思っていました。でも、もしよければ……これからも友達でいさせていただけないでしょうか?」


リリアの言葉は、心の底からの思いだった。彼女は少し緊張した様子で、しかし期待を込めた目でノクティアを見つめていた。


ノクティアはその瞬間、胸の奥にじんわりと何か温かいものが広がるのを感じた。自分だけではなく、リリアもまた、友達を作ることに悩んでいたのだ――それに気づいたことで、ノクティアは深い共感を覚えた。


「リリア……もちろん、私もこれからも友達でいられることを望んでいるわ。」

ノクティアの声は穏やかで、しかしその言葉には力強さがあった。


「ありがとう、ノクティア様……」

リリアは涙をこらえながら笑顔を見せた。


その様子を見守っていたダリオは、無言のまま満足そうに頷いた。彼もまた、二人の友情が深まる瞬間を、まるで自分のことのように喜んでいた。


◆  ◆  ◆


しばらく談笑が続いた後、リリアはふと、ノクティアに向かって以前の自分の言葉を思い出したように話し始めた。


「私、以前こんなことを言いましたよね……『エヴァ―フロストの音楽から離れることが不安』だって。国外での演奏は、もっと自由で、表現も違うから、私が本当にうまくできるのか心配だったって。」

リリアは少し微笑んで、遠い目をしながら語った。


「ええ、覚えているわ。あなたが外の世界の音楽に不安を感じていたこと……とてもよく分かったわ。」

ノクティアは頷きながら、リリアの言葉を思い出していた。


「でも、今は……少し違うんです。」

リリアは力強く言葉を続けた。「国外での演奏を経験して、気づいたんです。自由な表現の中にも、エヴァ―フロストの伝統を感じる瞬間がたくさんあって……伝統と自由は対立するものじゃないんだって。むしろ、伝統の中にこそ、本当の自由があるのかもしれないって。」


リリアの言葉を聞いて、ノクティアはふと心に浮かんだ感情に気づいた。それは、彼女が今まで求めてきた友情そのものではないかと感じたのだ。リリアが「伝統の中の自由」を見つけたように、ノクティアも自分自身と人との関わりの中で、自由と友情を見出すことができるのかもしれない。


「伝統の中に自由がある……そうね。あなたの言葉、なんだか私たちの友情のことを言っているみたいに感じるわ。」

ノクティアはしみじみと呟いた。


リリアは驚いたようにノクティアを見つめ、次第に微笑みを浮かべた。


「そうかもしれませんね。伝統に縛られていたようで、実はその中に自分を解放する方法があったみたいです。ノクティア様との関係も、そんな風に自由でいられたら嬉しいです。」

リリアの言葉には、自信と友情の絆が込められていた。


◆  ◆  ◆


ダリオは二人のやり取りを静かに見守っていた。彼はその場では何も言わなかったが、ノクティアの成長を目の当たりにし、内心で深く満足していた。彼女がただ王女としての役割を果たすだけではなく、一人の人間として他者との絆を築き上げていく姿を見て、ダリオもまた心の中で感慨を覚えた。


◆  ◆  ◆


――こうして、ノクティアとリリアの友情はさらに深まった。リリアが音楽を通じて気づいた「伝統と自由」の調和は、ノクティアが人との関係の中で見出そうとしている答えと重なっていた。そして、彼女たちの友情は、この共通の気づきを通じて強く結びついていくのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る