第十三話:友達として、王女として。応援できないもどかしさ
ノクティア・フロストナイトは、自室でリリアのソロコンサートの招待状を手に取り、ゆっくりと目を通していた。国外で開催されるリリアのコンサートは、彼女にとっても、エヴァ―フロスト王国にとっても大きなチャンスだ。エヴァ―フロスト宮廷楽団での活躍が認められ、国外での舞台に立つことは、彼女の夢が叶う瞬間でもあった。
「リリア、すごいわ……。この招待状が届くなんて、本当に彼女の実力が認められた証ね。」
ノクティアはリリアの成長を嬉しく思いながらも、ふと表情が曇った。
その時、護衛騎士のダリオ・シャドウスノウが、静かに部屋に入ってきた。
「王女様、何かお悩みですか?」
ダリオはノクティアが手にしている招待状を一瞥し、すぐに状況を察した。
「リリアのコンサート……実は、私も招待されているの。でも……」
ノクティアは少しため息をついた。
「ですが、王女としての仕事があるということでしょうか?」
ダリオは冷静に、そして正確に彼女の心を読み取った。
「そうなの。ちょうどコンサートの時期に、他の国との外交会談があるの。どうしても国を離れることができないわ……。」
ノクティアは招待状を握りしめたまま、悔しそうに呟いた。
リリアが自分に「友達」と言ってくれたのは、ノクティアにとって大きな意味を持っていた。これまで友達を作ることに苦労してきた彼女にとって、リリアとの絆は本当に大切なものだ。しかし、王女としての立場が、それを阻んでいることがもどかしかった。
「やっと仲良くなれたのに、彼女の一番大事な舞台に立ち会えないなんて……。私、友達としてどうすればいいの?」
ノクティアの声には、いつもとは違う弱さがにじんでいた。
ダリオは少し考え込み、静かに言葉を選んだ。
「王女様、直接応援に行けないことは確かに残念ですが、それだけが友達の証ではありません。リリア嬢もきっと、あなたが来られない事情を理解しているでしょう。」
ダリオは静かにノクティアを見つめた。
「でも、それでも何か……私は彼女に応援している気持ちを伝えたいの。せっかく友達になれたんだから、どうにか彼女を支えたいのに……」
ノクティアはそう言って、再びため息をついた。
ダリオは微かに頷き、冷静な口調で提案した。
「直接コンサートには行けなくても、別の形で応援することができます。例えば、王女様が彼女にメッセージを送ったり、特別な贈り物を用意することで、友達としての気持ちを伝えることができるでしょう。」
ダリオの提案に、ノクティアは少し考え込んだ。
「確かに……それなら、私が行けなくても、彼女に私の気持ちが伝わるかもしれないわね。」
ノクティアの表情が少し和らいだ。
「具体的には、どんな贈り物がいいかしら? あまり形式ばったものだと、友達としての気持ちが伝わらないかもしれないし……」
ノクティアは再び悩み始めたが、その様子にダリオが穏やかに微笑んだ。
「リリア嬢にとって、大切な友達からの心のこもったメッセージが一番効果的かと思います。形式ばったものより、心を込めた手紙や、何か彼女の音楽活動を応援するものが適切でしょう。」
ダリオのアドバイスを受けて、ノクティアは目を輝かせた。
「そうね! 私が彼女に手紙を書いて、気持ちを伝える。それに、彼女がコンサートを成功させられるように、何か特別な贈り物を添えようかしら……。」
ノクティアは決心した様子で、早速行動に移ろうとした。
◆ ◆ ◆
その日の夕方、ノクティアはリリアへの手紙を書き上げていた。机に座る彼女は、ペンを握りながら一息ついた。コンサートに行けないことをどう伝えればいいのか、言葉を慎重に選びながらも、彼女の気持ちは自然と溢れ出していた。
「リリア、あなたがどれほど頑張ってきたか知っているから、きっとこのコンサートも成功するわ。」
ノクティアは、リリアへの深い信頼と友情を手紙に込めた。王女という立場ゆえに、直接応援に行けないことがもどかしかったが、友達として心からの応援を届けたいという気持ちが彼女を突き動かしていた。
そして、リリアの成功を祈りながら、特別に用意した「月光のペンダント」を贈り物として添えた。エヴァ―フロストの冷たく輝く月光を象徴するこのペンダントは、音楽活動を通じて彼女が自分の力を信じられるよう、ノクティアの願いが込められていた。
◆ ◆ ◆
数日後、リリアの手元に手紙とペンダントが届けられた。
リリアは手紙を静かに開き、そこに書かれたノクティアの言葉を一行一行、じっくりと読み進めていた。彼女の目に一瞬、驚きの色が浮かび、やがてその表情は少しずつ優しく、そして感動に満ちたものへと変わっていった。
「……王女様が、こんなに……」
リリアは呟いた。手紙の中に、ノクティアの心からの応援がはっきりと感じられた。コンサートに行けないことを詫びる一方で、リリアへの期待と友情が深く込められた内容だった。
「彼女も、私のことをこんなに応援してくれてるんだ……」
リリアの声は震えていた。彼女はそっとペンダントを手に取り、手のひらでその冷たい輝きを感じた。
「この月光のペンダント……エヴァ―フロストの月の光……。王女様は、私にこれを……」
リリアは思わず目頭を押さえた。彼女はノクティアからの手紙とペンダントを、ただの形式的な贈り物だとは全く感じなかった。王女としてではなく、一人の友達として、自分を心から応援してくれているというその気持ちが、リリアの心に深く染み渡った。
リリアは手紙を胸に抱きしめ、決意を新たにした。
「王女様がこうして私を応援してくれるなら、きっと私は乗り越えられる。コンサート、絶対に成功させるわ……!」
リリアの目には涙が浮かんでいたが、その瞳の中には新たな決意と力強い光が輝いていた。
◆ ◆ ◆
コンサート当日、ノクティアは自国での外交会談に臨んでいた。表面上はいつも通り冷静な王女としての振る舞いをしていたが、心の中ではリリアのことが気になっていた。
「私が行けなくても……リリア、きっと成功するわ。」
ノクティアは心の中でそう呟き、微笑んだ。
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