第十話:武術大会と友達作りの一歩。ダリオの助言
エヴァ―フロスト王国の武術大会当日、ノクティア・フロストナイトとダリオ・シャドウスノウは貴賓席に座り、試合の様子を静かに見守っていた。各国から集まった精鋭たちが繰り広げる戦いは、まさに圧巻だった。剣が交わり、魔法が飛び交う壮絶な戦いに、観客席からは歓声が上がっていた。
「さすがにどの国も精鋭ぞろいね……」
ノクティアは試合の様子を見ながら、ふと呟いた。
「はい。我が国も総合的には良い成績を収めていますが、全勝というわけにはいきませんね。」
ダリオが冷静に答える。
それでも、エヴァ―フロストの兵士たちはかなり健闘していた。王国の名誉を守るため、彼らが日々鍛錬を重ねていることが証明されていた。
「でも……」
ノクティアは小さな違和感を抱えていた。エヴァ―フロストの騎士や兵士たちは、自らの力で戦い抜いていた。ダリオの助言も役立っているのだろうが、彼らの地力が大きかったため、ダリオの貢献が目立つ場面は少なかった。
「あなたの力がもっと発揮される場面があれば、良かったのに。」
ノクティアは小さくため息をつき、ダリオに目を向けた。
「王国の精鋭たちが自分の力で戦うことは、良いことです。私の助言は補助にすぎません。」
ダリオは淡々と答えたが、ノクティアは少しだけ不満げに唇を噛んだ。
そんな中、次の試合が始まるアナウンスが流れた。次の出場者は、ノクティアが注目していた人物――ロイ・ダークアイスだった。新人の部門に出場している彼は、まだ経験が浅く、この大会で大きな成長を見せることが期待されている。
「ロイの試合が始まるわ。」
ノクティアは体を少し前に乗り出した。ダリオもその様子をじっと見守っていた。
ロイの相手は、異国からやってきた若い騎士だった。彼の持つ魔力は火属性で、ロイにとっては相性が悪い。試合開始直後から、ロイは苦戦を強いられていた。火の魔法が襲いかかり、彼の闇魔法で応戦するも、すぐには反撃できない状態が続く。
「彼、苦戦しているわね……」
ノクティアの眉が少しだけ曇る。
「確かに、相手の属性はロイ殿にとって不利です。しかし、彼は我慢強く粘っています。」
ダリオは静かに言葉を続けた。「私の助言通り、相手の動きをじっくり観察しているようです。すぐに反撃できるタイミングが来るでしょう。」
ダリオの言葉通り、ロイは焦らず、相手の動きに集中していた。少しずつ相手の攻撃のパターンを見極め、隙を狙って反撃の一歩を踏み出す。そして、ついに訪れたその瞬間――相手が火の魔法を放つ直前に、ロイは素早く動き、剣で斬りかかった。見事な連携で、ロイは一気に逆転に持ち込んだ。
観客席からは歓声が沸き起こる。ロイは辛くも勝利を収め、試合が終了した。
「やったわ……!」
ノクティアは思わず笑みを浮かべた。
ロイは、貴賓席に向かって一礼し、その後、ダリオに感謝の意を込めたような視線を向けた。
「ありがとうございます、ダリオ様の助言がなければ、この勝利はなかったでしょう!」
ロイの声が試合会場に響き渡る。周囲からは賞賛の声が聞こえ、ダリオの名が囁かれていた。
「……どうやら、あなたの力がしっかりと評価されたわね。」
ノクティアは満足そうに笑った。
「ありがたいことです。しかし、ロイ殿自身の力によるものでもあります。」
ダリオは冷静に答えたが、周囲の賞賛が彼を囲む中、ノクティアは微かに誇らしげな表情を見せた。
試合が終わり、ロイが退場していくのを見送った後、ノクティアはふと考え込んだ。
「ロイとは、これで良いわ。」
彼女は突然そう口にした。
「どういう意味でしょうか?」
ダリオが首を傾げる。
「ロイは信頼できる若者だし、これからも王国を支えてくれるでしょう。でも……騎士の友達は、もう十分よ。」
ノクティアは微笑みながら続けた。「だって、あなたがそばにいるから。」
その言葉を聞いた瞬間、ダリオの表情は一瞬だけ変わったかのように見えたが、すぐに元の無表情に戻った。
「私は王女様の護衛です。友人としてお考えいただいていることは光栄ですが、私の役割は変わりません。」
「分かってるわ。」
ノクティアは軽くため息をついた。
でも、彼のことをどれほど知っているんだろう?
ふと、ノクティアは気づいた。彼女はダリオに対して深い信頼を寄せているが、彼のプライベートな部分についてはほとんど知らなかった。ダリオが以前、彼女のプロフィールをまとめた時のことを思い出し、自分も同じことができるだろうか? という疑問が浮かんできた。
「……ねえ、ダリオ。あなたって普段、何をしているの?」
ノクティアは半分冗談めかして言ったが、その声にはほんの少しの好奇心が混じっていた。
「普段ですか? 王女様をお守りする以外には……特に目立った趣味はございません。」
ダリオは冷静に答えたが、ノクティアは少しだけ笑いながらその言葉を聞いた。
「そっか……でも、いつかその部分も知ってみたいわね。」
ノクティアはそう言って、再び試合の会場に目を戻した。
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