第九話:見守る王女。ダリオの助言と新人の挑戦
エヴァ―フロスト王国で間もなく始まる武術大会を前に、王女ノクティア・フロストナイトはダリオと共に、出場予定の騎士や兵士たちと面談を行っていた。武術大会は、各国から集まる騎士や兵士たちが技を競い合う、外交的にも重要なイベントだ。ノクティアは彼らを激励し、ダリオはそれぞれに的確な助言を与えていた。
王国の精鋭たちが順に部屋に入り、ノクティアの前で決意を述べる。彼らは自信に満ちており、ダリオの助言に敬意を払いつつも、彼らの地力がすでに確立されていることが感じ取れた。ノクティアも、騎士たちの地力が確かなことを嬉しく思う一方で、どこか心に物足りなさを感じていた。
「……みんな、優秀ね。」
ノクティアは、面談を終えた騎士が退室した後、ふとため息をついた。
「王国の精鋭たちはそれぞれ、自分たちの技術を確立しています。私の助言があまり必要ないほどに。」
ダリオが淡々と答えた。
「それはいいことなんだけど……あなたの実力がもっと大きな力を発揮する場面があれば、と考えてしまうの。」
ノクティアの声には、少しだけ寂しさが混じっていた。彼女はダリオの実力を深く信頼しているが、ここで彼の力が完全に発揮されているとは思えなかった。
その時、ドアが軽くノックされ、最後の面談相手が現れた。
「失礼します!」
部屋に入ってきたのは、ロイ・ダークアイスだった。彼は新人の部門に出場する予定の騎士で、経験こそ浅いが、将来を期待されている若者だ。
「ロイか……」
ノクティアは彼の顔を見て、以前にダリオが作ってくれた友達候補リストを思い出した。
ロイはまだぎこちない挨拶をしながら、ノクティアとダリオの前に立った。
「どうかよろしくお願いします!」
ロイは緊張しながらも、強い意志を持って頭を下げた。
「……君は新人の部門で戦うんだね。」
ノクティアは穏やかに言葉をかけた。新人同士の戦いは、まだ不安定な要素が多く、ダリオの助言がここでは特に有効に働くかもしれない。
「そうです!初めての大きな大会で、少し緊張していますが……精一杯戦います!」
ロイは真剣な目で答えた。その目には強い決意が宿っていたが、どこか不安げな影も見え隠れしていた。
ノクティアは少し考え込んだ。そして、ダリオに目を向けた。
「ダリオ、彼には特にあなたの助言が役立つかもしれないわね。」
彼女の言葉に、ダリオは軽く頷いた。
「確かに、新人同士の戦いでは、経験の差が大きく影響します。ロイ殿が持つ技術を最大限に引き出すために、いくつかの戦術的なアドバイスが必要です。」
ダリオは冷静にロイを見つめ、具体的な指導を始めた。
「あなたの闇魔法と剣術の組み合わせは、非常にユニークです。しかし、まだその連携が十分に洗練されていない印象を受けます。試合では、まず相手の動きをじっくり観察し、その隙を突く形で攻撃に移ることが重要です。」
ダリオの言葉を、ロイは真剣に聞き入っていた。彼の目は、大きな尊敬と期待で輝いていた。
「相手が動いた後に一歩遅れて動くことで、あなたの闇魔法の特性を生かしつつ、剣技を補完できます。それに、少し守りを意識しすぎているようです。攻めの姿勢を強め、相手にプレッシャーをかけることも重要です。」
ダリオの助言は的確で、ロイはそれを理解しようと何度も頷いていた。
「ありがとうございます、ダリオ様。とても参考になります……!」
ロイの顔には、緊張と同時に少しだけ自信が芽生えたような表情が浮かんでいた。
ノクティアはその様子を静かに見守っていた。ダリオの助言が的確にロイを導いているのを見て、彼女はふと心の中で考えた。
アリシアの時と同じ失敗は繰り返さない。
ノクティアは自分にそう言い聞かせた。以前は友達を作ろうと、感情的になってしまった結果、アリシアとの関係が崇拝に変わってしまった。それを踏まえ、今回はもっと距離を保ちながら、友達作りを学ぶことにしたのだ。
「ダリオ、彼にはいいアドバイスができたわね。」
ノクティアは微笑みながらダリオに声をかけた。
「ありがとうございます、王女様。ただ、ここからはロイ殿自身の力で戦わなければなりません。私はあくまで指導を行う立場に過ぎません。」
ダリオは冷静に答えた。
「それでいいの。ロイの成長を見守ることが、今の私の役割よ。」
ノクティアはゆっくりと頷き、少しずつ成長する自分自身を感じていた。
今回の友達作りは、急がない。適度な距離を保つことで、自然な関係を築くことができるかもしれない――。
そう決意しながら、ノクティアはダリオと共に、ロイの背中を見送った。
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