第六話:隠された雷。打ち明けられた秘密と心の変化

王立魔法学院の試験場で、ノクティアは友達候補のアリシア・フロストリーヴの見事な氷魔法を目にした。自分から挨拶してきた彼女の親しげな態度に、ノクティアは「普通の友達」と話せる日が来るかもしれない、と胸が高鳴った。


だが、ダリオの警告により、アリシアに隠し事があるのではないかと感じ取ったノクティアは、少し緊張しながら問いかけた。


「アリシア……あなた、何か隠していることがあるんじゃない?」

ノクティアの声は優しさと好奇心が混ざっていたが、その心の奥では、もし彼女に重大な秘密があるなら、それをどう受け止めればいいのかという不安もあった。


アリシアは少し驚いた表情を見せたが、すぐに苦笑し、沈黙の後、深い息を吐いた。


「……やっぱり、感じ取られてしまいましたか。隠していたつもりだったんですけど……」


アリシアは少し緊張した様子で話し始めた。


「実は、1年ほど前から私の中で雷の魔力が突然目覚めて……それがどんどん強くなっていって……」


アリシアは、雷の魔力が自分の体に負担をかけ、特に心臓に影響を与えていること、魔力を抑えないと魔法を使えなくなっていること、そして、その奇病が根治する方法がないことを静かに打ち明けた。


ノクティアはその話を聞きながら、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。目の前にいるアリシアが、どれほどの苦しみを抱えているかを考えると、今までのように「王女として冷静であるべき」と自分を制する気持ちはどこかに消えていた。


アリシアは夢を追い続けるために、その痛みを隠していたのだ。


「……そんな……そんなのって……」

ノクティアは思わず言葉を飲み込んだ。友達を作りたいと単純に思っていた自分の気持ちが、今や彼女を助けたいという強い感情に変わっていくのを感じた。


友達になりたい――その言葉が、頭の中でぐるぐると回り始める。


ノクティアはこれまで「王女」として、感情を表に出すことを避け、孤独と責務の狭間で生きてきた。しかし今、目の前のアリシアの苦しみを知った瞬間、王女としてではなく、一人の人間として彼女と向き合いたいという衝動が湧いてきたのだ。


「……諦めたくないって思うんでしょう?」

ノクティアは、まるで自分自身のことのように問いかけた。その言葉にアリシアは少しだけ頷いた。


「はい……でも、これ以上は無理かもしれないって、最近は思ってました……」


ノクティアはその表情を見て、心の中で確信した。この子と友達になりたい――その気持ちは、もう「王女としての義務」ではなく、純粋な感情から湧き上がったものだった。


「……だったら、諦めちゃダメよ!」

ノクティアは勢いに任せて言ったのではなかった。自分の心が自然とその言葉を導いていたのだ。


「アリシア、私はあなたの友達になりたい。そして、友達を助けたいの。だから一緒に解決策を探しましょう。私たちにできることはあるはずよ!」


自分で言って、少し驚いた。自分からこんな風に友達になりたいって言うなんて…… けれど、それが今の自分の素直な気持ちだと気づくと、すっと肩の力が抜けたような気がした。


「……ノクティア様……そんなこと……」

アリシアは一瞬戸惑いを見せたが、次第に彼女の目に希望が宿り始めた。


「でも……どうやって……?」


「ダリオも協力してくれるわ。一緒に方法を考えて、何とかして解決してみせる!」

ノクティアはアリシアの手を握り、力強く言った。


ダリオはその二人のやり取りを無表情のまま見守っていたが、少し前に出て冷静に言った。


「王女様のお考えであれば、全力でサポートいたします。まずは、この病についてのさらなる情報を集め、治療法の可能性を探る必要があります。」


「……本当に、ありがとうございます。」

アリシアの目には、感謝と驚きが入り混じった表情が浮かんでいた。彼女はもう一度、静かにノクティアを見つめる。


「ノクティア様……」


「違うわ、もう『様』はやめて。私はノクティア、あなたの友達だから。」


その言葉を聞いたアリシアは、目を潤ませながら微笑んだ。


「……ありがとう、ノクティア。」


二人の間に確かな絆が生まれた瞬間だった。ノクティアは王女としての壁を超え、自分自身の心から出た「友達」という言葉が、こんなにも重く、そして温かいものだと感じていた。


「よし、これで決まりね! ダリオ、これからアリシアを助ける方法を考えましょう。」


「承知いたしました。王女様……いや、ノクティアの意志を尊重し、計画を立てます。」


ダリオはいつも通り冷静だったが、その姿に安心感を覚えるノクティアは、ふと冗談を口にした。


「ダリオ、少しリラックスしてよ。これから友達作りはさらに増えるかもしれないわよ?」


「……慎重に行動します。」

ダリオは相変わらず真面目なまま応じたが、ノクティアは思わず微笑んだ。

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