第五話:王立魔法学院での出会い

ノクティア・フロストナイトは、公務の一環として王立魔法学院を訪れていた。この学院は、王国の若き魔法使いを育成する重要な場所で、今日は学生たちが実技試験を行っている。宮殿の静寂とは違い、活気にあふれた学院の雰囲気に、ノクティアはどこか新鮮な気持ちを抱いていた。


「ここが魔法学院か……」


彼女は視察のため、学院の試験場に向かった。次々に氷魔法を使う学生たちの姿が目に入る中、ふと一人の学生に目が止まる。


「……あれは、アリシア?」


試験を受ける学生の中に、アリシア・フロストリーヴの姿を見つけたのだ。彼女はダリオが作った友達候補リストの中にいた人物で、王立魔法学院に通う優秀な生徒だと知っている。


「確か、氷魔法が得意で、星空観察が趣味だったわね……」


ノクティアはそのプロフィールを思い出しながら、アリシアの試験をじっと見つめた。アリシアは見事な氷の壁を作り出し、その安定感と魔法の精度は群を抜いていた。


試験が終わると、アリシアはノクティアに気づき、笑顔で手を振りながら近づいてきた。


「ノクティア様!こんにちは!」

彼女の自然な挨拶に、ノクティアは少し驚いたが、すぐに手を振り返した。


「こんにちは、アリシア。試験、見事だったわね。」


「ありがとうございます!緊張しましたけど、なんとか……ノクティア様に見られているとは思いませんでした。」

アリシアは少し照れくさそうに笑い、その自然な態度にノクティアも心地よさを感じた。


「こういう会話……いいかも……」


ノクティアはアリシアともっと話してみたいという気持ちが沸き上がってきた。彼女の自然な振る舞いは、ノクティアが求めている「普通の友達」に近いと感じたからだ。


しかし――


「王女様、少しお待ちください。」

突然、ダリオが冷静な声で制止した。彼はアリシアの実技試験をじっと見ていた。


「どうしたの?」

ノクティアは不思議そうにダリオを見つめた。


「先ほどのアリシア嬢の魔法……彼女の氷魔法は確かに優れていましたが、他の属性の魔力を感じ取りました。彼女はその属性を隠しているようです。」


「……隠している?」

ノクティアは眉をひそめた。彼女は、エヴァーフロスト王国において他属性の魔法を学ぶことや使うこと自体は禁じられていないと知っていた。それでも、隠す必要があるのだろうかという疑問が湧いた。


「他属性の魔法を学ぶことは禁じられていないはずよ。それに、プロフィールにも氷魔法が得意だとしか書かれていなかったわよね。何で隠す必要があるのかしら?」


「確かに、国として他の属性を学ぶことは禁じられていません。ですが、彼女は実技試験でそれを意図的に隠していたように見えました。それが不自然です。そして、プロフィール調査でもこのことは確認されていませんでした。彼女は巧妙に自分の魔力を制御し、他の属性を隠している可能性が高いです。」


ダリオは静かに告げたが、その真剣さが伝わってくる。ノクティアは再びアリシアを見つめたが、彼女は普通に笑っている。


「でも……そんなに疑う必要があるの? 普通に感じの良い子に見えるわ。」

ノクティアは疑念と共に、少し戸惑いを覚えていた。


「彼女が何かを隠している理由が分かりません。禁じられているわけではないのに、なぜ他の属性を公にせず、試験でも氷魔法だけを使うのか――その点が疑わしいのです。」

ダリオは冷静なまま説明するが、ノクティアは彼の慎重すぎる姿勢に少しだけ不満を抱いた。


「でも、彼女は自然に話してるし、別に危険な感じはしないわ。そんなに過剰に警戒することでもないんじゃない?」


「王女様、あらゆる可能性を考慮すべきです。もし何か危険な意図がある場合、後になって対処するのでは遅すぎます。」


ノクティアは考え込んだ。確かに、ダリオの言うことも一理ある。だが、友達を作ろうとしている最中に、過剰に警戒するのは逆効果に思えた。


「……ちょっと待って、ダリオ。あなたがアリシアを友達候補として紹介してくれたんじゃなかったの?」


「紹介したのは、あくまでプロフィールに基づいた判断です。しかし、実際に会って魔力を感じた時、より詳細な情報が必要だと考えています。」


「……それって、何かやりすぎじゃない? 友達を作るために来てるのに、そんなに警戒してどうするのよ。」


ノクティアは苦笑いを浮かべた。ダリオの忠実すぎる行動が、またもや彼女の友達作りを少し遠ざけているように感じたからだ。


「友達を作る手助けをしてくれるのは嬉しいけど、そこまで慎重じゃなくていいのよ。もう少し自然にできない?」


「自然に、ですか……」


「そうよ。まずはもう少しアリシアと話してみるわ。もし本当におかしなことがあったら、その時あなたの忠告を聞く。でも今は、ただ友達を作りたいだけなの。」


ノクティアは自分の直感を信じてみることにした。ダリオが作った完璧すぎるプロフィールではなく、実際に話してみることで感じる自然な友情を求めていた。


「ご判断を尊重します。しかし、いつでも注意を怠らないようにしてください。」


ダリオは冷静なまま一歩引いたが、その無表情の背中が「頑張りすぎ」の印象をさらに強調していた。

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