第四話:完璧すぎるプロフィール、友達公募は難しい?
エヴァーフロスト王国の宮殿に、いつもと変わらない静寂が漂っていた。冷たい氷の壁に反射する月光が、宮殿全体を神秘的に照らしている中、ノクティア・フロストナイトはいつものように自室で考え事をしていた。
「友達を作るのって、やっぱり難しいわね……」
ふとつぶやいたその言葉が、室内の空気に消える。そのとき、ドアが音もなく開き、護衛騎士ダリオ・シャドウスノウが現れた。彼は手に厚い書類の束を持っている。
「王女様、準備が整いました。」
ダリオは淡々とした声で告げ、ノクティアの前に書類を差し出した。
「準備……? 何の話?」
「王女様が『友達を作りたい』とおっしゃっていた件です。適切な方法として、王女様ご自身のプロフィールを作成し、広く公募する準備を進めました。」
「公募って……ちょっと待って、プロフィールって何よ?」
ノクティアは目を見開きながら、ダリオが差し出す書類を受け取った。分厚いページの中に、彼女のプロフィールがぎっしりと書き込まれている。
「これは、王女様が友人をお探しであることを広めるための資料です。王女様がどのような方か、詳細に記載しました。」
「……これ、まるで求人募集じゃない? 友達を公募するなんて、ちょっと……」
ノクティアは書類を見て思わずため息をついた。
「これは『友達募集』です。決して求人募集ではありません。」
ダリオの冷静な返答に、ノクティアは思わず苦笑した。
「それは分かってるわ……でも、これを配って本当に友達ができるの?」
「確実です。王女様の素晴らしい人柄を正しく伝えれば、多くの応募が集まると考えられます。」
「……どれどれ。」
ノクティアは少し興味を持ち、ダリオが作ったプロフィールを読み始めた。
ノクティア・フロストナイト
年齢: 17歳
肩書き: エヴァーフロスト王国 王女
二重属性: 氷と闇
特技: 氷魔法(上級)、闇魔法(中級)
趣味: 月光を浴びながら瞑想、静かな時間を過ごすこと
好きな食べ物: 冷たいデザート全般
性格: 冷静で控えめ。公務を忠実に遂行する責任感の強い人物。
感情: 感情を抑えることに長けており、常に冷静沈着。時折、人知れず繊細な一面も見せるが、ほとんどの人には気づかれない。
「……ちょっと待って、これって完璧すぎない? これじゃ友達になりたいって思う人、なかなかいないんじゃない?」
ノクティアは自分のプロフィールを読み進めながら、あまりに立派すぎる内容に少し困惑した。自分でも「これじゃ私って、近寄りがたい王女だ」と思わざるを得なかった。
「王女様の素晴らしいお人柄を正確に表現しました。」
「いや、確かに私のことをよく見てるとは思うけど……これだと、逆に壁を感じる人も多いんじゃないかしら?」
ノクティアは資料の内容をじっくりと見つめながら、ため息をついた。ダリオが彼女をよく理解しているのは間違いないが、それが逆に問題だった。
「こんなに完璧なプロフィールだと、応募する人がみんなプレッシャーを感じちゃうわ。」
「プレッシャーですか? しかし、王女様にふさわしい友人を見つけるためには、これほどの正確さが必要だと考えました。」
「それは分かるけど、もっと気軽に話せるような人と友達になりたいのよ。これじゃ、まるで『応募するのは相当な覚悟が必要です』って書いてるようなものよ。」
ノクティアは思わず笑い出した。プロフィールの内容は正確で、まさに自分そのものを写し出している。だが、それが「友達作り」に向いているかどうかは別問題だ。
「それに、この『感情を抑えることに長けている』って部分、もう少し柔らかく書けないの?」
「王女様が常に冷静であるという事実を正しく伝えた結果です。」
「……もう少し感情的な部分があってもいいのよ。だって、友達を作るためには感情も大切でしょう?」
ダリオは少し考え込んだようだったが、無表情のままノクティアを見つめた。
「では、感情を少し追加して、より親しみやすいプロフィールに改訂します。」
「ええ、そうしてくれると助かるわ。でも、ダリオ……あなた、こんなに私のことをよく見てるのね。ここまで細かく書かれると、ちょっと恥ずかしいわ。」
ノクティアは笑いながら資料を再び閉じた。彼女にとって、このプロフィールは自分を客観的に見つめ直すいい機会となった。
「王女様の友人作りを成功させるため、全力でサポートします。」
ダリオは真剣な顔で答えるが、その真剣さがどこかズレているのも事実だ。
「ありがとう、ダリオ。でも、頑張りすぎないでね。友達作りは、もっと自然に進めていこうと思うわ。」
「自然に……理解しました。では、王女様にふさわしい自然な友人候補をさらに探してまいります。」
「いや、もうそれ以上はいいわ……まずはこれで様子を見ましょう。」
ノクティアは苦笑しながら、ダリオの熱心さに感謝しつつ、少し肩の力を抜くことにした。友達作りはまだ始まったばかりだが、少なくとも彼女には一生懸命にサポートしてくれる騎士がいる――それだけでも心強いことだと感じた。
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