幕間その4「温泉でのんびり」


 週末、綺羅は村の近くにある温泉に招待された。同行者はエリーゼとオリヴィア。


「やっと来られたわね」オリヴィアが嬉しそうに言う。「この温泉、体の疲れを癒してくれるのよ」


 エリーゼも頷いた。


「そうなの。綺羅はいつも頑張ってるから、たまにはゆっくりしないとね」


 綺羅は少し照れくさそうに笑った。


「ありがとう。確かに、少し休息が必要かもしれません」


 三人は脱衣所で湯に浸かるための準備を整えると、女湯へと足を踏み入れた。そこは木造りの壁に囲まれた、趣のある空間だった。天井からは湯気が立ち込め、柔らかな光が差し込んでいる。


「あぁ、なんて気持ちいいの……」


オリヴィアが満足そうに言う。エリーゼも頷いた。


「ほんと、ここの温泉は最高よね」


 綺羅は二人に続いて、ゆっくりと湯船に足を付けた。熱めのお湯が、彼女の肌を優しく包み込む。体の芯まで温まっていくようだ。


「はぁ……」


 思わず幸せな溜息が漏れた。日頃の疲れが、一気に溶けていくような感覚。


「綺羅、ずっと頑張ってたもんね。たまにはこうしてゆっくりするのも大事よ」


 オリヴィアが優しく言う。エリーゼも同意した。


「そうそう、休息も仕事のうちってね」


 綺羅は少し照れくさそうに微笑んだ。


「みんな、ありがとう。私、この村に来てから、本当に充実した日々を送っているの。温かく迎え入れてくれた村人たち、そしていつも支えてくれる二人がいるから」


 オリヴィアとエリーゼは、綺羅の言葉に心打たれた様子だった。


「綺羅、あなたのおかげで村は良い方向に変わったわ。むしろ私たちの方こそ、感謝してるのよ」


 エリーゼが真摯な表情で言う。


「そうね。綺羅がいなかったら、今頃村はどうなっていたか……考えるだけで恐ろしいわ」

 オリヴィアも続けた。


「だから、私たちはあなたを支え続けるわ。一緒にこの村を、もっと住みやすい場所にしていきましょう」


 綺羅は二人の言葉に、胸が熱くなるのを感じた。


「エリーゼ、オリヴィア……」


 思わず目頭が熱くなる。


「ほら、せっかくの温泉なんだから、笑顔よ!」


 エリーゼが綺羅の頬をつついて言った。三人は顔を見合わせて、笑い合う。


「ふふ、そうだったわね。こんな良い湯に浸かってるんだもの。幸せを感じなくちゃ」


 綺羅も笑顔で言う。


 こうして三人は湯船に浸かりながら、和やかな時間を過ごした。日常の喧騒から離れ、ただお湯の温もりに身を委ねる。心身ともにリフレッシュできる、かけがえのないひとときだった。


 しばらくして、エリーゼが言った。


「ねえ、せっかくだし、背中流しっこしない?」


「いいわね!」


 オリヴィアが賛同する。


「じゃあ、私から流してもらおうかしら」


 綺羅は嬉しそうに言った。温泉での女子会は、まだまだ続きそうだった。


「じゃあ、まずは綺羅の背中を流すわね!」


 エリーゼが体を洗うための石鹸と体洗いタオルを手に取る。


「お願いします!」


 綺羅は嬉しそうに答え、エリーゼに背中を向けた。


 エリーゼは石鹸を泡立て、綺羅の背中に優しく手を滑らせる。


「綺羅の肌、すべすべだわ~。うらやましいな」


「そんな、エリーゼだってきれいよ」


 綺羅は少し照れながら答える。


「次は私が綺羅の髪を洗うわ!」


 オリヴィアが心地よさそうに言った。


「あら、ありがとう。では、お願いしますね」


 綺羅は嬉しそうに頷く。

 オリヴィアはシャンプーを手に取ると、綺羅の長い黒髪に静かに指を通わせ始めた。


「綺羅の髪、本当にサラサラで美しいわ。こんなに長いのに、まったく傷んでいないなんて」


「そう言ってもらえて嬉しいわ。オリヴィアの手、とっても心地いいわよ」


 綺羅は目を閉じ、リラックスした表情を浮かべる。


「ふふ、こう見えても髪を洗うのが上手なのよ」


 オリヴィアが得意げに言う。


「私はエリーゼの腕を流してあげるね」


 綺羅はエリーゼに提案した。


「ええ、ぜひお願いするわ」


 こうして三人は、お互いの体を洗い合った。石鹸の泡と、笑い声が女湯に心地よく響く。


「あっ、くすぐったい!」


 背中を流されているエリーゼが声を上げる。


「あら、弱いところがあるのね!」


 綺羅がいたずらっぽく言って、さらにそこを洗う。


「もう、やめてよ~!」


 エリーゼは笑いを堪えきれずにいる様子だった。


 三人の楽しそうな会話と笑い声が、湯気の中に溶けていく。お互いを思いやる優しさと、深い絆が、この空間を満たしていた。


「ふぅ、なんだかすっきりしたわ」


 体を洗い終え、綺羅が言う。


「ほんと、身も心も洗われた気分ね」


 エリーゼも満足そうに頷いた。


「お風呂上りのお肌もつるつるよ」


 オリヴィアが言葉を添える。


「みんなで体を流し合うなんて、なんだかすごく幸せな気分になったわ。こういう何でもない瞬間が、とっても大切だと思うの」


 綺羅が心からの想いを口にする。


「綺羅……」


 オリヴィアとエリーゼは、綺羅の言葉に心を打たれた。


「私もよ。こうして綺羅とオリヴィアと一緒に過ごす時間が、なによりも大切」


 エリーゼが微笑む。


「うん、私もそう思う。三人で一緒にいられるから、どんなことも乗り越えられる気がするわ」


 オリヴィアも真摯な表情で頷いた。


 三人は互いの手を取り合い、固く握りしめた。温かなお湯に浸かりながら、友情の絆を再確認する。


「これからもずっと、仲良しでいようね」


 綺羅の言葉に、三人の想いが重なり合った。女湯に、笑顔と幸福感が満ちていた。


「あぁ…それにしても本当に気持ちいいわ……」


 オリヴィアが楽しそうに尋ねた。


「ねえ綺羅、あなたの世界にも温泉ってあったの?」


 綺羅は懐かしそうに答えた。


「ええ、ありました。日本という国が特に有名でしたね。でも、この世界の温泉も負けていません」


 エリーゼが興味深そうに聞いた。


「温泉って、どうして体にいいの? 綺羅なら科学的に説明できるでしょ?」


 綺羅は少し考えてから答え始めた。


「そうですね。まず、温泉には様々なミネラルが含まれています。それが皮膚から吸収されて、体調を整えるんです。それに、お湯の温度で血行が良くなり、筋肉の緊張をほぐしてくれます」


 オリヴィアが感心したように言った。


「なるほど。だから薬効があるって言われてるのね」


 綺羅は続けた。


「それに、温泉に入ることでリラックスできるのも大切なポイントです。心身ともにリフレッシュできるんです」


 エリーゼがくすっと笑った。


「綺羅ったら、温泉に入りながらまで勉強してるのね」


 綺羅も照れくさそうに笑う。


「ごめんなさい。つい科学者モードになっちゃって」


 オリヴィアが優しく言った。


「いいのよ、それもあなたの魅力だわ。でも今日は、ゆっくり休むことに専念しましょう」


 三人は湯船に浸かりながら、他愛もない話に花を咲かせた。仕事の話、村の噂話、そして将来の夢。時間が経つのも忘れるほど、楽しい時間だった。


 温泉から上がる頃には、綺羅の頬はほんのりと赤く染まり、体の疲れが嘘のように消えていた。


「本当に来て良かった」綺羅は心から言った。「みんな、誘ってくれてありがとう」


 エリーゼとオリヴィアは笑顔で頷いた。


「また来ましょうね」


 帰り道、綺羅は心身ともにリフレッシュした感覚を噛みしめていた。時には休息も大切。その教訓を胸に、彼女は新たな気持ちで村に帰っていった。

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