第7話「光る石の不思議」
夏の暑さが厳しくなる中、グリーンウィンド村では新たな問題が持ち上がっていた。
「鉱山での作業が危険すぎる」
鉱夫のブルーノ・ストーンクラッシャーが、村の集会所で訴えた。
「暗くて足元も見えないし、ガス爆発の危険もある」
村人たちの間で不安な声が広がる。その時、綺羅が前に進み出た。
「ブルーノさん、その鉱山を案内してもらえませんか?」
ブルーノは驚いた表情で綺羅を見た。
「お嬢ちゃん、危険だよ。君には無理だ」
綺羅は自信に満ちた笑顔で答えた。
「大丈夫です。きっと役に立つ何かが見つかるはずです」
鉱山に到着した綺羅は、慎重に周囲を観察した。そして、ある鉱石に目が留まった。
「これは……」
綺羅の目が輝く。エリーゼが興味津々で尋ねた。
「何を見つけたの、綺羅?」
綺羅は嬉しそうに答えた。
「この石、蛍石という鉱物よ。光を当てると、しばらくの間発光するの」
ブルーノが首を傾げる。
「へえ、面白い石だね。でも、それがどう役立つんだい?」
綺羅は丁寧に説明を始めた。
「この石を使って、安全な照明システムを作れるんです。光を蓄えておいて、暗い所で使うの」
「本当かい?」ブルーノの目が希望に輝いた。
綺羅は微笑んで答えた。
「はい。みんなで協力して、蛍石を使った照明を作りましょう」
綺羅の指導の下、村人たちは蛍石を用いた鉱山用照明器具の制作に取り掛かった。まず、採掘された蛍石を適当な大きさに砕き、それを金属の網で包む。この金属の網は、熱によって蛍石が割れたり粉々になったりするのを防ぐ役割がある。
次に、この蛍石の入った金属の網を、金属製のランプに取り付ける。このランプは、反射板と呼ばれる曲面の金属板を備えている。反射板は、蛍石から発せられる光を効率的に特定の方向に反射させる働きがある。
蛍石は、太陽光や火のような強い光にさらされると、その光エネルギーを吸収し、暗闇の中で光を放出する性質(蓄光性)がある。この性質を利用し、昼間に太陽光を十分に当てておいた蛍石ランプを、夜間や坑内で使用する。
このランプは、火を使わないため、坑内で発生しやすい可燃性ガスへの引火の危険がない。また、電気を必要としないため、電力インフラが整っていない環境でも使用できる。
さらに綺羅は、鉱山内の有毒ガスを検知する簡易装置の製作も指導した。この装置は、ガラス瓶の中に特殊な薬品を入れたもの。有毒ガスが存在すると、薬品の色が変化する仕組みだ。
具体的には、硫化水素を検知する場合、酢酸鉛(II)の溶液を使用する。無色透明のこの溶液は、硫化水素と反応すると黒色の硫化鉛(II)の沈殿を生成する。一酸化炭素の場合は、塩化パラジウム(II)の溶液が用いられ、一酸化炭素と反応すると黒色の金属パラジウムが析出する。
鉱夫たちは、ランプに取り付けた小さなガラス瓶の色の変化を見ることで、坑内のガス状況を監視できる。色の変化が見られた場合は、ただちに退避するよう徹底された。
村人たちは綺羅の説明に熱心に耳を傾け、慎重に装置を組み立てていった。科学の力で、これまで危険とされてきた鉱山労働の安全性が飛躍的に向上することに、村人たちは大きな希望を抱いた。
「綺羅さん、本当にありがとうございます!」
ブルーノは感激し、綺羅の手を握った。
「いえ、みんなで力を合わせたからこそ、できたんです。この装置が、鉱夫の皆さんの命を守ることを願っています」
綺羅は誇らしげに鉱山を見渡した。そこへオリヴィアが近づいてきた。
「素晴らしいわ、綺羅。あなたの知恵が、また村を救ったのね」
綺羅は照れくさそうに首を振った。
「いいえ、これもみんなの協力があってこそです。それに……」
綺羅は鉱山の奥を見つめた。
「私にはまだまだ探求すべきことがたくさんあるんです。この世界の鉱物の不思議を、もっと解明したい」
オリヴィアは綺羅の横顔を見つめ、優しく微笑んだ。
「そうね。あなたの好奇心が、きっと村に、そしてこの世界に大きな変化をもたらすわ」
光る石に囲まれた鉱山で、二人は未知なる可能性について語り合った。
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