幕間その3「子供たちとの遊び」
晴れ渡る空の下、綺羅は村の広場にいた。周りには大勢の子供たちが集まっている。
「綺羅お姉ちゃん、今日は何して遊ぶの?」
小さな男の子が目を輝かせて尋ねる。綺羅は優しく微笑んだ。
「そうですね…みんなで科学遊びをしてみない?」
子供たちから歓声が上がる。
「やったー! 綺羅お姉ちゃんの科学遊び、大好き!」
綺羅は用意してきた材料を取り出した。
「今日は、空気の力を使って遊んでみましょう」
彼女は空のペットボトルと風船を取り出し、風船をボトルの口に被せた。
「さて、このボトルを温かいお湯に入れると、どうなると思う?」
子供たちは首を傾げる。綺羅がゆっくりとボトルをお湯に浸けると、風船が膨らみ始めた。
「わあ! 風船が大きくなった!」
子供たちの驚きの声が響く。綺羅は嬉しそうに説明を始めた。
「これは、ボトルの中の空気が温められて膨張したからなの。空気も熱せられると体積が大きくなるんだよ」
一人の女の子が手を挙げた。
「じゃあ、冷たい水に入れたらどうなるの?」
「よく気がついたわね」綺羅は褒めた。「実際にやってみましょう」
冷水に浸けると、今度は風船がしぼんでいく。子供たちは歓声を上げた。
「すごい! 魔法みたい!」
綺羅は笑いながら言った。
「魔法じゃなくて科学よ。でも、科学の不思議さは魔法に負けないでしょ?」
科学遊びを教えながら、綺羅は次第に童心に帰っていった。
「次もこの風船を使って……」
説明しながら、綺羅は風船を膨らませ始めた。しかし、息を強く吹き込みすぎて、突然風船が割れてしまった。
「きゃっ!」思わず綺羅が飛び上がる。
子供たちは大笑いし、エリーゼもくすくすと笑いを隠せない。
「綺羅ったら、そんなに驚いて。子供みたい」
綺羅は真っ赤な顔で抗議した。
「もう、エリーゼってば! 私だってびっくりするんだからね!」
そう言いながらも、綺羅自身も笑いだしてしまった。科学者としての顔の裏に、まだまだ残る子供らしさが垣間見えた瞬間だった。
「じゃあ、次はシャボン玉の秘密について学びましょう」
綺羅は、石けん水を用意しながら説明を始めた。
「シャボン玉は、石けん分子が水の表面張力を下げることで作られるんだ。石けん分子には親水基と疎水基という二つの部分があって、水に溶けると疎水基を内側に、親水基を外側に向けて配列するの」
そう言いながら、綺羅はストローで石けん水に息を吹き込んだ。きらめくシャボン玉が次々と浮かび上がる。
「シャボン玉の膜は、石けん分子の二重層でできているんだよ。だから、光が当たると綺麗に虹色に見えるんだ」
子供たちは目を輝かせながら、自分たちでもシャボン玉を作り始めた。
次に、綺羅は色変わり実験の準備を始めた。
「今度は、酸とアルカリを使った化学反応を見てみましょう」
ペットボトルに紫キャベツのジュースを入れ、それを二つのコップに分ける。
「紫キャベツには、アントシアニンという色素が含まれているんだ。これは、酸性では赤く、アルカリ性では青く変色するという特徴があるんだよ」
一つのコップに酢を加えると、液体は赤く変化した。もう一つのコップに重曹を加えると、今度は青く変わる。
「酢は酸性、重曹はアルカリ性。アントシアニンは、水溶液の pH によって色が変わるんだ。これを pH 指示薬と呼ぶんだよ」
子供たちは興奮気味に実験を真似し、色が変わる様子に歓声を上げた。
「赤からピンク、紫、そして青へ。まるで魔法みたい!」
綺羅は微笑んだ。
「これが科学の魔法。不思議そうに見えることにも、ちゃんと理由があるんだよ」
こうして、綺羅は科学の原理を、子供たちにも分かるようにやさしく教えていった。シャボン玉の構造、pH 指示薬の仕組み。難しそうな概念も、実験を通して直感的に理解することができる。
子供たちの好奇心に火をつけながら、綺羅自身も科学の面白さを再発見していた。知ることの喜び、そして、それを誰かと共有する楽しさ。
「みんな、質問があったらいつでも聞いてね。一緒に、もっともっと科学の不思議を探求しましょう!」
元気な返事が、広場に響き渡った。グリーンウィンド村の未来を担う子供たちに、科学の種が蒔かれた瞬間だった。
遊びの終わり頃、エリーゼが様子を見に来た。
「綺羅、子供たちと仲良く遊んでるのね」
綺羅は少し照れくさそうに答えた。
「ええ、子供たちと遊ぶの、本当に楽しいんです。彼らの好奇心や素直な反応に、私も元気をもらっています」
エリーゼは優しく微笑んだ。
「あなたって本当に素敵よ、綺羅。科学者としてだけじゃなく、みんなの良きお姉さんとしても」
綺羅は深く頷いた。
「ありがとう、エリーゼ。私にとって、この村の人たちはみんな大切な家族なんです」
夕暮れ時、疲れきった子供たちを送り出しながら、綺羅は心から満足していた。科学の種を蒔くこと、それは未来への大切な贈り物。そう信じて、彼女は今日も子供たちと過ごしたのだった。
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